神田雑学大学 講演抄録
第266回 (平成17年6月10日)
演題 「熊と地震」
講師 高田榮一氏
今日のテーマであります「熊と地震」の前に、たまたま世界でも屈指の美しい蛇を持ってきておりますのでみなさんにご紹介したいと思います。
これはミルクスネークとコーンスネークで両方ともアメリカ産ですがアメリカ開拓史のロマンが感じられるいい名前の蛇です。
日本ではろくな名前の蛇がいなくて唯一青大将が素晴らしい名前をもっています。
ヘビのスタイルというのは長い間土中生活をしている間にこのような合理的な姿になったわけでまさに自然の摂理にあったものといえるのでないでしょうか。
こういう蛇も地震を研究するうえで重要な存在なのです。
動物の地震予知
昨年(平成16年)は本州の日本海側広域にクマ騒動が続発しました。その出没ぶりは例年のような(目撃)で終わらず、「遭遇」となって怪我を負う人もたくさんでました。
クマのほうが人間に接触してくるのだから普通の状態ではありません。
動物は本来「防衛の臨界距離」(Critical Distance=クリティカル・ディスタンス)を持っていまして、常に個体としての距離を保っています。
毒蛇はわかり易い例ですが、その距離の中に一歩でも侵入されれば、直ちに攻撃か逃避の行動にでる生命の保全に欠かせない距離なのです。
人間も同じことで「スープの冷めない距離」が、いみじくもそのことを教えています。
動物の本来のこうした行動に反して、自ら人間に接近してくるクマの行動は、異常と考えるしかありません。私は「何かある」と感じていました。
しかしこういうクマの現われ方を、自然派の専門家たちは異常といわずに「つぎつぎと襲ってきた台風と豪雨で、餌となる木の実などが不足したから・・・」と論じていました。
たしかに記録破りの台風と豪雨で,餌不足はそれなりに納得できることではありました。
しかし、そう結論ずけてしまっていいのかと,私はクマの現われ方から考えました。
人里にクマが出没する現象は,今に始まったことでなく以前から見られていました。理由とすれば、人間の過剰な開発行為がクマの生活領域を縮めたためと指摘されてきました。
里山への人の過剰な侵入と干渉。針葉樹植生による単一林の拡大で木の実などが得られなくなっています。クマは人里に下りて来て餌を漁るほかない結果に迫られます。まず農作物の味を覚え、次には人間の残飯の得やすいことを知ります。当然人を見慣れて恐がらなくなる。こうしたクマが「新世代熊」と呼ばれるようになっていたのです。雑食性のクマはもともと深山に生息する動物ではないのです。
これが今までの一般的なクマ現象でした。そこに昨年の台風と豪雨が連続しました。その中でのクマ現象に注目して従来型でない特別の傾向を読み取ったのです。
それは防衛のための臨界距離のことで、この大原則からハミ出たクマの行動だったのです。動物の行動学から考えると、これは単純なことではありません。
私はこの行動を四つの傾向に絞りました。
1. すべて日本海側で起こっている。
2. 遭遇頻度が高い。
3. 攻撃被害が重なる。
4. 仔連れが目立つ。
地域的な限定と、考えられない行動から、私の感は“地震”に結びついていったのです。
仔連れで人に接近する行動は、野生動物の習性からは考えられません。すぐに攻撃に及ぶ凶暴さも尋常でありません。恐らくクマは日常的な警戒心とはべつの不安に神経を乱されながら餌を漁っていたのです。
あとで詳術しますが,動物は五感の働きで、大地のわずかな異変を感知します。すると本来の属性にはない動きを示します。地底の岩盤のズレからくる電磁場の変化、ラドンガスなどの発生に反応します。昨年のクマの行動は、まさに地震を予知した表現だったのです。クマからの私の“予感”が不幸にも新潟地震となって的中してしまったのです。
しかし、いまそれを言うと、いかにもご都合主義ととられそうですが、動物の行動の整合性と神戸地震のときの動物現象、それに「中国の地震予知と動物」など論理と実証にもとずく私の予感でした。
ここでクマについて説明しておきましょう。
日本のクマは二種類,北海道のヒグマと本州のツキノワグマで,分布線の境界は津軽海峡です。動物学ではこの海峡をブラキストン線(Blakiston’s Line)と呼びます。
明治の初め來日した英国の動物学者ブラキストンが日本の動物相を調査し、津軽海峡に生息の境界線があると提唱しました。クマだけでなく、シカ、キツネ,リスなど多くの動物もそうです。
このような自然科学の重要なことを教えてくれたブラキストン氏の名前を動物学の中に残したのです。ですから本稿のクマはすべて本州のツキノワグマのことです。
現在なされている、器械による地震予知は全く効果を見せておりませんがが、これは当然のことで、器械には予知しようという意志がないのです。自然現象で起こるものは自然構成者の動きを通じて注意深く学べば予知は出来るのです。
昭和61年(1986)私の書いた「爬虫類の超能力」(講談社)のなかで,私は一項を立て「動物の地震予知」の可能性にふれました。中国の粘り強い動物による予知努力と、日本の器械一辺倒の文明病を比べながら,動物に学べと書いたのです。
<ナマズで地震予知をしようという考え方は素晴らしい智恵である。動物はすぐれた五感を持っていて,異常や危険を感知しようという意志を常に働かせている。この能力によってこそ,大自然の圧力の中で生き抜いてきた。こういう自然構成単位の動物の価値を無視して、日本は器械による地震予知対策に固執している。しかし器械に意志はない。
揺れに,物理的に反応するだけである。何億円を投じても,器械は便利の満足を得るだけのものだ。自然現象は自然の構成者から学ぶほかない>
これは私の著書の地震と動物の項の書き出しですが、これに続けて、中国ですすめられている動物の地震予知を詳しく書いたのです。中国は、あの巨大な国土の全域から,動物の異常行動記録を集め,データ化して,地震予知に役立たせています。
この研究の中心になっているのが,中国科学院生物物理研究所で、そこで刊行した《動物と地震》の原本と和訳本が私の手元にあります。原本は東京大学地震研究所におられた萩原幸男教授に頂いたもので、東大でも中国の地震予知と動物に就いて、静かに注目しているのです。和訳本は親しい古書店主が探し出してくれた貴重な一冊です。
読むと、科学的に分析されていることに驚きます。地震については次の項目が解説されています。
震動および地鳴り。大地の変形とそれに伴なって生じる現象、地下水中のラドンの含有量の異常変化、地電流、電位場の変化、地震直前の発光と閃光、気象異常、その他地球物理学的変化―――
これに対する(動物)の代謝、興奮性、適応性、生理が詳述されています。
刺激と組織の興奮との関係、ニューロンの構造と生理的特徴、中枢神経系の活動と特徴――(ニューロンとは神経機能単位のことで、動物の神経系統の基本構造)
話が長くなりましたが、予知した動物の実例がたくさん紹介されています。
ジャイアントパンダの例。痴呆状態で動かない。二本の前肢で頭を抱え、驚いたように叫び声をあげる。食べ方がめだって遅い。
このように予知による異常行動の観察はヘビ、ヒル、ドジョウ、スッポン,シチメンチョウ、シベリアトラなど多数に亘っています。挙げていくと、とても時間が足りませんので新潟地震と神戸地震、それにスマトラ沖大津波に見られる動物の異常現象に触れてみます。
新潟地震のあと、 私は期待していました。クマのほかに必ず動物現象がある筈だというわけです。クマはたまたま人間が被害を受けたから目立ったまででのことで、クマだけが地震に反応しているのではない。さて、地震から一ヶ月ほどたつと「そういえば・・」という災害農家の談話が週刊誌に載りました。「林の中にフトミミズが這い回っていた」
「モグラが地面を走っていた」などなど。地震前の目撃です。
神戸地震のときは、 あとになってから沢山の報告を神戸大学が採集したのです。すべて地震の一週間前か一日前の動物現象です。天井裏のネズミが騒がなくなった。籠の小鳥が鳴かなくなった、神社の鳩が消えてしまった・・・などと神戸大学の先生が多くの動物現象を集めています。作家の藤本義一氏はこんなことをテレビでコメントしていました。
これは私がたまたま見ていたときですが「野良犬が群を作って一定の方向に急いで歩いていた。不思議な行動だとは思っていたが、まさか地震が襲ってくるとは・・・」と。
この犬の行動こそ、大地の異常から遠ざかろうという動物の予知現象ではないですか。
スマトラ沖津波の時は, ゾウが芸を果たさず林の中に走っていったとか、海浜ホテルの一室にカマキリが群をなしていた。などと新聞が報じていました。記者が地震についての知識がないので,津波を理由にしていますが、津波のもとは地震ですから,動物は強く地震を感知していたのです。
いろいろと述べて来ましたが地震の襲来は止めることができません。しかも不意打ちです。とくに日本人にとって宿命的な地震です。地震からのダメージを少しでも軽くするためには予知するしかありません。その予知を教示してくれるのが動物なのです。予知できれば10分前であっても有効な対策ができます。

動物から教えられるためには、日ごろから身の周りの自然を深く観察していることですね。要するに自然観をゆたかにすることが何よりの人生哲学と私はつよく皆様に訴えて、お話を終わりたいと思います。
長時間、ご清聴ありがとうございました。
――拍手―― 以上
文責:得猪外明 会場撮影:山本啓一 HTML制作:上野治子
|