さあさあお立会い、
御用とお急ぎでない方はゆっくりと聞いておいで見ておいで、遠め山越し肩のうち、
近よらざればものの誤り方(あやめりかた)とんとあい分らんのが道理だ。
山寺に鐘エありといえども童子(どうじ)来たりて鐘に撞木(しゅもく)を当てざれば鐘の音色は分らない、
なにごとも聞かざるとき見ざる時、物のよしあし、見方とんとあい分らんのが道理だ。
まずは松井源水こまの芸、ゆっくりと見ていただこう。まずは小手調べ打ち上げ、
『よいしょどっこい』
『ほおおおおおおおよいしょっと』 『黙って見ていないで手をたたけ』 (拍手)
拍手に応えまして『もう一回よいしょっと』 (拍手)
『よいしょ。ほらちょいと摘めば初春はやぐら太鼓、よいしょっと』 (拍手)
色々やりたいんだが、時間の都合があるんだよね。
20分でやめてくれというんだから。
こっちも20分でやるとなるとちょっと忙しい。山の中の一本杉、
『よいしょっと』 (拍手)、
一度廻りだすと明けの六つから暮れの六つまで廻り続けるという、
磐梯山は日暮らしの独楽なんて言っているけれども時々おっこちる、
おっこちると前の方2,3人怪我させる。
昨日も3人怪我させて中の一人が今朝息ひきとった。
見ているほうは命がけ。
やってるほうは鼻歌まじり、
『はいかざぐるまー』 (拍手)、
『はい落花の舞』 (拍手)
あまり長くやっていると疲れるからね。
今日は早いところ終わりにしちゃって、『はいっ、刀の刃渡り』。
今こんな長い刀さして大道で刀の刃渡り見せているのは私ひとりくらいになっちゃったなー。
みんな大道は雨が降ったり風が吹いたりするんで嫌だというわけで、舞台の方に行っちゃったね。
むかしから独楽は縁起物とされております。
くるくる廻るのを見ておりますと、頭の回転が良くなって金回りも良くなって、
家が建って蔵が建ってというのが独楽の芸でございます。
『いやっ!』
『達磨大師は座禅の相』『逆落とし』『逆流れ』
『虹の架け橋、切っ先止め、よいしょっ!』 (拍手)
『はい落花の舞』 (拍手)
まだ色々あるんだけれど時間の都合でこのくらいにして、さて独楽を回して見せたからといってわしゃ芸人ではない。
庶民救済のために薬を売っておりますので、これに書いてあるように陣中膏蝦蟇の油、
蝦蟇蝦蟇と申しますると皆様方はうちの台所や縁の下に沢山おるとこう思う御仁がございましょうが、
あれは蝦蟇ではないぞ、お引きがえる、玉がえる、あんなものに薬石の効がある訳がない。
しからばこの蝦蟇はどこにおるか。花のお江戸は西に離れること130里、
江州は伊吹山の麓に乳母子(おんばこ)という薬草を食ろうて育っているのがこの四六七面相(しろくひつめんそう)の蝦蟇、
四六五六(しろくごろく)はどこで見分ける、前足の指が四本、後足の指が六本、
これを称して四六は七面相の蝦蟇という、
『さあお嬢さん前足何本?』
『急にきかれても分んないよね。後足何本?』
この蝦蟇を捕らえるには5月8月10月の満月の晩、
木の根草の根踏み分け奥山深く分け入って捕らえて参りましたのが伊吹山名物、
五八十(ごはっそう)は四六の蝦蟇だ、
さあてお立会い、蝦蟇の油の製法は、まず捕らえましたら蝦蟇をば、
四面鏡を貼りつめたる金網の中に追い込む。
蝦蟇は鏡に映ったおのが姿に驚いて、せなかより脂汗をたらーりたらーりと流す。この脂汗をば金網下に設けたる器に受けまして、
京は加茂川のほとりに生えておりまする柳の小枝を集めまして、これを1尺2寸に切りそろえたものをば燃料と致し、三七は二十一日間とろーりとろーりと煮詰めまして、赤いのが辰砂、黄色いのがやし油、さらに南蛮国はオランダより取り寄せましたテレメンテーカはマイテーカをば調合いたし、練りに練って練り合わせて出来ましたのが、この陣中膏蝦蟇の油。
しからばなんに効くかと申しますると、蝦蟇の油の効能は、まず金創、切り傷、刀傷、鉄砲傷、ひす、がんがさ、ヨウバイソウ、今様にいうならば梅毒のことだが、そちらの色男、遊びに行ってもてるからといって喜んでばかりはおられんぞ。変な病気が移ると鼻が欠けて大切なヘノコが溶けてなくなる、今のうちに蝦蟇の油をつけて直しておきなさい。寒さに向かってひび、あかぎれ、しもやけ、ひぜん、田虫、いんきん、後ろにまわれば、で痔、いぼ痔,脱肛、痔ろうの方、このような方はお尻の周りをきれいにして蝦蟇の油を一、二度塗れば、出血が止まって痛みが止まる。
蝦蟇の油の効能はまだあった。大の男が畳みの上を転がりまわって痛がるという虫歯、歯の痛みだ。このような方は小指の先ほどの蝦蟇の油を白紙に包んで痛い歯の上にそっと乗せて軽く噛んでいただきますと、熱いよだれがだらだらだらと流れ、煙草一服する間の時間に、熱と痛みが流れさる。
蝦蟇の油の効能はまだある、刃物の切れ味をとめる、こう言っても信用がないな。実際にお目にかけよう。とりいだしましたるは我が家に伝わる重大なる家宝、無銘ながら相州物、切れ味はたしか、抜けば玉ちる氷の刃、南蛮鉄でも真っ二つ、まず切れる、切れないは白紙を刻んでご覧にいれる。白紙というからただの白い紙だ。なんのしかけもない。まずこうやって一枚とやるとね、この頃のお客さんてのは頭が良い、計算が速い。
私より先に一枚が二枚、二枚が四枚、四ん枚が八枚、八枚がにはちが十と六枚、十六枚が三十と二枚、三十と二枚が六十と四枚、六十と四枚が一百と二十八枚だと私より先に言うやつがおる。
これじゃ私の方は商売にならない。
ただしあれは落語家が高座で見せる芸、大道ではそんな切り方はしていなかった。
ではどうやって切っておったか。
まず一枚切る時は人間の皮膚一寸切れる。
二枚切る時には肉まで切れる。
四枚切る時には骨まで切れる。
八枚切る時には腕一本切り落とすことができる、十六枚切る時は人間の胴体真っ二つ、ひとつ胴だ。
吹き上げますれば嵐山は落花の舞、比良の暮雪は雪降りの景、『ふーっ。』 (拍手)
雪が少ない?今年は暖冬なんだよな。あまり細かく切ると掃除するのが大変。このくらいが丁度いい。
まずこのように切れる刀に蝦蟇の油を一塗りする。まずは切っ先から鍔元まで、さし表、さし裏、蝦蟇の油一塗りした。さあ切れない。叩いて切れない。引いて切れない。押して切れない。叩いて引いてしごいても切れない。お客さんの中には「なんだお前握った指先に力が入っていないのではないか」とお疑いの方がいらっしゃる。
それではこうしよう。てぬぐいで固く結ぶ。私が結んだんじゃお疑いの方がいらっしゃろうから、こちらの力の余っている旦那さん、力いっぱい結んでください。
「色男金と力はなかりけり」だって?もっと力いれて。
『そらっ』。
なにもそう言ったって、なにも力いっぱい縛ることないでしょう。
正直な方でございます。
さあこれを引き抜く。
『それっ、これ、どっこいしょ!』抜けないよ。
本当に結ぶんだもん。さあ困った。困った時はどうする。
こうする。
『よいしょ!』さあ抜けた。
手ぬぐいを取る。5本の指がばらばらと落ちる。
落ちた指を蝦蟇の油をつけて元通りくっつける。
そんな馬鹿なこと出来るわけないわな。
まあ手ぬぐいをとる。はいこの通り。
傷跡ひとつついておらん。
さあどうだ。 (拍手)
お立会いの中には「なんだお前のところの薬は刃物の切れ味を止める薬か、あるいは名刀をなまくらにする薬だろう」とおっしゃる方がいる。そんなことはないぞ。蝦蟇の油の効能は血止めだ。皆様方ご家庭において子供さんが庭先や往来で滑って転んですりむいて血が出た、あるいは子供さんどうしが喧嘩をして棒でなぐられて額から血が流れた、
あるいはお母さん方お勝手で包丁の取り扱いを誤って、指先を切った、こんな時血が止まらないで困った経験お持ちの方が多いと思いますが、この蝦蟇の油ひと貝ありますれば、もうご安心、傷口に一塗りいたしますれば、流れる血潮がぴたりと止まるという、このようなこと如何に口上で申し上げましても納得いかないのが人情、これより我が二の腕切って流れる血潮ぴたりと止めてご覧に入れる。
まずは蝦蟇の油を拭き去ります。さあ蝦蟇の油拭き去りました。さあ腕を切ってご覧にいれる。さあ切るぞいいか!このあいだ見ている人が「おまえ二の腕というのは肘から上肩から下、ここが二の腕だと」。今の若いやつは知らんからここを二の腕と盛んにここを切るとしている。ここは血管が細い。切ってもたいして血が出ない。おまえそれでは内側を切ってみろ。内側は大変だよ。血管が太い。切り損なうと血が止まらなくなる。だけど今日は内側を切ってご覧に入れる。
『さあ切るぞ。いいか!』
君が切られるんじゃないんだから、私の方が痛い思いして切るんだから、こっちを向いて。
『さあ切るぞ。いいか!』本当にいい?切れば痛いんだよね。
こうやって昔はなかなか切らない。
小半時というからだいたい1時間くらいは切らない。
なぜ切らないかというと体勢が悪い。
こんな遠く離れているところで、はい、切った、血が出た。
蝦蟇の油一塗りした。血が止まった。
痛みが去った。というとお客がさーとみんないなくなっちゃう。
みんな行かれてしまっては私の方は商売にならない。そのためにはお疑いのある方はずっとこちらまでいらっしゃい。
こちらまでいらっしゃい。
なるべく近くに寄せ付けて2重3重人垣を作らせて、動けないようにしておいて、おもむろに切る。
さあ切るぞ!『やあーー!』切れたー。
あまり血が出ないわなー今日は。
時期が悪いんだな。引き潮の時だからな。
でも切れて血が出てる。だが驚くことはない。吃驚することはない。
落ち着いて蝦蟇の油一塗りする。さあ、蝦蟇の油一塗りして上を柔らかい布で覆う。
10えているうちに血がぴたりと止まるという。
さあ数えていただきましょう。『ひとおつ。ふたつ。みっつ。四つ。五つ。六つ。七つ。八つ。九つ。十。』さあそれでは手ぬぐいを取って紙を取っていただきましょう。
どうだこの通り傷跡一つ残らない血止めの妙薬蝦蟇の油、皆様家庭の常備薬として是非お供えいただきたいとはるばる江州から取り揃えた品物にございますれば、皆様にては大貝十二文、小貝八文をもってお分けしておりまするが、ご当地初の出張っての宣伝でございますので、小貝八文、大貝十二文あわせまして二十文でお分けすることになっております。数に限りがございます。お早い方10名だけ、後になって欲しいと申しましても絶対この値段でお手に入る品物ではございません。はいはいはいはいありがとうございます。ありがとうございます。 (拍手)
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