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平成22年7月2日
神田雑学大学定例講座N0513


冷凍餃子中毒事件 意外な結末  講師 塩崎哲也

目次
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1.はじめに 逮捕の容疑者は真犯人?
2.冷凍餃子事件とは
3.犯人逮捕の連絡
4.公安説明の疑問点・矛盾点
5.冷凍餃子の輸入
6.麻薬犯罪での日本人死刑執行
7.売買春犯罪
8.終わりに



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講師プロフィール

磯崎哲也講師 神田雑学大学一の中国通。
中国に長い間単身赴任し、余暇を使って中国情報をネット、雑誌、新聞で調査士、中国レポートを作成し関係者に送り続けた。
会社を辞め、日本に帰ってきた今でも、その調査意欲は衰えず、日々新たな情報を満載した塩崎レポートを発信し続けている。

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1.はじめに 逮捕の容疑者は真犯人?

2010年3月26日、新華網は、中国製冷凍ギョーザ中毒事件の容疑者を逮捕したことを報じた。
逮捕されたのは、餃子の製造元である天洋食品(河北省石家荘市)の元臨時工・呂月庭容疑者(36歳、河北省出身)。取り調べに対し、毒物を注入したことを認めており、給与問題と同僚への不満が動機であったと供述。中国公安ではすでに犯行に使用した注射器を押収。また、大量の証言も得ている。
 私塩崎は、本報道に接し、突然のことでにわかには信じられず、また、公安部の記者会見の模様をTVで知り、犯人特定の経緯を納得するには疑問点、矛盾点が多く、逮捕された容疑者は本当に犯人なのであろうかとの疑問をもった。以下、私が感じた疑問点、矛盾点を整理すると;
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2.冷凍餃子事件とは

2−1.経緯
07年12月下旬から08年1月にかけて、中国の天洋食品が製造、JTフーズが輸入、日本生活協同組合連合会が販売した冷凍餃子を食べた千葉県千葉市、市川市、兵庫県高砂市の3家族計10人が下痢や嘔吐などの中毒症状を訴えた。
このうち、市川市の女児が一時意識不明の重体に。両県警が餃子を鑑定したところ、メタミドホスなど有機リン系殺虫剤が検出された。
その後の詳細な鑑定の結果、市川市の家族が食べて吐き出した餃子の皮から3,580ppm、具から3,160ppmのメタミドホスが検出された。これは検疫基準を大幅に上回り、数個食べただけで死に至る可能性がある量であった。
食品安全委員会によると、人が一度に摂取すると健康被害を及ぼすメタミドホスの量は体重1kg当り1日0.003ppmである。

2−2.流通経路
中毒を発生させた餃子はいずれも天洋食品が製造し、JTフーズが輸入したものであるが、流通経路は2ルートがある。

中毒餃子の流通経路

一つは関西ルートの「中華deごちそうひとくち餃子(以降、中華deと略称)」と、もう一つは関東ルートの「CO・OP手作り餃子(以降、手作りと略称)」である。
「中華de」は天洋食品が10月1日に製造し、30日工場出荷、11月2日天津港、6日大阪港入荷、その後税関検査を受け、年末に各地小売店に1万1千袋を出荷したもので、うち加古川市イトーヨーカ堂加古川店、および枚方市ハッピース枚方店の2店の販売品に問題があった。
一方、「手作り」は天洋食品で10月20日に製造され、23日に工場出荷、29日天津港を出港、11月5横浜港入港、越谷市のコープネット倉庫を経由し、6千8百袋が全国に出荷され、そのうち、コープ市川店、コープ花見川店で販売されたもので中毒事件が発生した。
検査の結果、餃子(皮・具とも)から大量のメタミドホスが検出された。

2−3.ルート以外の状況
 1月末、上記2ルートの中毒事件が日本国内で大きく報道され、その結果2ルート以外の疑わしき過去の事例が明るみに出た。
2月5日、日本生協連は福島県喜多方市で販売されていた「CO・OP手作り餃子」(07年6月製)から高濃度のジクロルボスを検出したと発表。2月8日には同商品からトルエン、キシレン、ベンゼンが、2月20日には仙台市のみやぎ生協から回収した同商品から、ジクロルボス、パラチオン、パラチオンメチルの計3種類の有機リン系殺虫剤が検出された。


2−4.包装袋の外観検査
兵庫県警、および千葉県警では中毒発生品の包装袋を精査し、その結果、「高砂品の袋には微小な孔があった」、「市川品、千葉品共に孔・傷ともに発見できなかった」と発表(2年後訂正)。

包装袋の外観検査

中毒事件発生後、生協側が市場から同製品を自主回収する段階で、ハッピース枚方店で包装袋に孔・傷がある商品、および異臭のある商品が見つかり、検査したところメタミドホスが検出された。
高砂品で包装袋から微小な孔が見つかったことを受け、中国公安は日本国内での流通段階でも毒物を混入できる。また、高砂品以外で、殺虫剤が餃子の包装の外側にも付着しており、一部の袋には穴が開いていたことから、毒物混入の経緯を日本国内の可能性を強く主張した。
これに対し、2月21日、警察庁の吉村長官は定例記者会見で、「(1)密封された袋の内側からも検出されており、袋の外側から薬物が浸透する可能性がない」、「(2)薬物が日本で使用されているものと違って不純物が多く含まれていた」、「(3)千葉、兵庫両県で中毒を起こしたギョーザは中国を出荷後、流通ルートに接点がない」点などを根拠に「日本国内で混入した可能性は低いと考えている」と発言した。

2−5.天洋食品の冷凍餃子製造工程
天洋食品の工場レイアウト

中国側の説明による工場のレイアウトは、上図の通りで、昼夜2シフト制であるが、どの工程も作業員は複数で、しかも最後の包装工程では、品質監視員が常時監視している。
箱詰め前にはX線検知機、金属探知機を通し、金属、異物の購入を防いでいる。
さらに、従業員の勤務態度、不正を防止し、品質の検証のために、工場の4角には監視カメラを据付け、24時間監視・録画している。

2−6.日中双方捜査当局の見解の相違
08年2月22日、警察庁は、中国公安部との情報交換会議で捜査・鑑定の結果を提供したが、中国公安部側は「混入の可能性は日中双方にある」と応じた。
日本と中国の検査当局の見解 2月28日、中国公安省刑事偵査局の余新民副局長が「中国で混入した可能性は低い」と述べ、日本国内での毒混入を示唆するとともに、「日本は鑑定結果を提供しない」と発言した。同日、吉村警察庁長官は、余副局長の会見内容について、
2月28日の会見で余副局長は、実験の結果メタミドホスが袋の外側から内側へと浸透したと発表したが、その後この実験に使われた袋の一部に穴が空いていたことが明らかにされている。
こうして日中の主張は平行線となり、警察当局も捜査を一旦終了し、事件はこのまま真相が解明されないまま迷宮入りするかと思われた。
2月11日、徳島にて冷凍餃子の包装の外側から微量の有機リン系殺虫剤「ジクロルボス」が検出され、販売店が防虫作業のために店内にて「ジクロルボス」を含む薬剤を使用した可能性があったことを発表すると、中国国内にて報道が急増、「日本人は毒餃子が中国と無関係と認めた」と情報操作を開始し、2月15日には、天洋食品工場長の言葉として「我々は最大の被害者だ」など事実とは異なる表現で報じられるようになった。
TBSは番組内にて、これまでの経緯をまとめて報じ、中国語で「すり替え」を意味する「頂替」であると中国を批判した。
このような中国当局の対応により、中国の一部の消費者に対し天洋食品の餃子は問題ないという認識がなされ、後の事件に繋がった。

 日中双方捜査当局の見解の平行線をまとめると;
 ◆製造工程での混入の可能性
  日本:密閉した袋からメタミドホスを検出。製造工程以外の混入は困難
  中国:監視カメラ、品質監視員の厳重な監視があり、工程での混入は不可能  ◆流通工程で       の混入の可能性
  日本:兵庫、千葉の2ルートには日本国内での接点がなく、流通工程での混入は考え難い。
  中国:コンテナーは鉛で封印し、日本到着後、日本係員立会いで開け、異常ないことを確認。
 ◆使用メタミドホス
  日本:日本で実験用に保有している薬品の濃度・純度は検出品とは大きく異なる。
  中国:検出品と同様の品質品は世界どこでも入手可能。それを日本で使用することは可能。
 ◆袋の外側から浸透の可能性
  日本:枚方品袋を用い、20℃、100倍濃度の薬液で12時間放置したが浸透せず。
  中国:-18℃下、3種の濃度の水溶液で実験。10時間で浸透を確認
     日本から提供された袋には外側の方の検出量が多く、浸透の可能性を示している。

2−7.メタミドホス、ジクロルボスとは  
◆メタミドホス
日本では毒性が高いと判断されて登録されておらず、農薬や殺虫剤として使用することはできない。中国、アメリカ、南米、オーストラリアなどでは、昆虫やダニ類にも効果が大きいと、広範に使用されていた。

メタミドホス、ジクロルボスとは

このうち、中国では1990年代から使用対象が制限されていたが、これを守らないで乱用されてきた。
そのため、国内や香港などに出荷する野菜や果物から許容量を超えた残留が発見され、廃棄処分を受けたり、中毒を起こす問題がたびたび発生した。
この事態を受けて政府は01年頃より使用禁止を検討し、07年1月1日からは他の毒性の高い農薬4種と共に流通、使用を禁止した。08年1月9日からは一部例外を認めながらも生産することも禁じた。
日本でも過去に中国からの輸入品を中心にソバやレイシなどで、基準を超える残留が発見されている。

中国では高毒性農薬であるとして野菜、きのこ、茶、果樹、生薬、家庭内の衛生害虫、家畜への使用は禁じられてきた。有機リン系農薬の最大許容残留量を穀物、野菜及び果物、食用植物油に分けて定めているが、メタミドホスについては野菜などには使用禁止のため、使用が認められている穀物に関して0.1 ppm以下という残留基準しかない。

毒性について、経口毒性を半数致死量(LD50)で表すと、ラットの場合は7.5 mg/kg, ウサギの場合は10 mg/kg, マウス及びモルモットの場合は30 mg/kgである。また、人間の経口毒性については専門家の談話としてLD50が30 mg/kg程度であるとの意見がある。人間に対する無毒性量は0.04mg/kg・日としている。
摂取から約1日の間に症状がでて、数日間続く。嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、流涎、頭痛、めまい、脱力など。吸入では鼻水、胸脇苦満など。視界がぼやけ、縮瞳、流涙、眼痛、協調運動障害、呂律障害、重篤な場合は呼吸中枢の障害・呼吸筋麻痺・気道浮腫などにより肺水腫、呼吸困難、昏迷を引き起こし死に至る。
これらは典型的な有機リン化合物の中毒症状であり、同じく有機リン化合物であるサリンの中毒によっても同様の症状が発生する。
メタミドホスは固体・針状結晶物で、水に容易に溶解する。分解性(半減期)は好気的条件下で、水中で27日、泥中で1.9日と比較的分解しやすい化学物質である。
注:好気的条件:遊離酸素(O2)が存在する条件(水の中など)を「好気(or絶対好気)」,結合酸素(NO3など)だけが存在する場合を「通性嫌気」,どちらも存在しない場合を「嫌気(or通性嫌気」と区別する。

◆ジクロルボス
中国では、「敵敵畏」などの名で農業用殺虫剤として広く使われている。
有機リン系農薬の最大許容残留量を穀物、野菜及び果物、食用植物油に分けて定めているが、ジクロルボスの許容量は未精製の穀物に関して0.1 ppm以下、野菜及び果物に関しては0.2 ppm以下、食用植物油からは検出されないことと定めている。

毒性について、他の有機リン化合物と同様にコリンエステラーゼ阻害作用がある。吸引すると倦怠感、頭痛、吐き気、腹痛、下痢などの症状が出、重篤な場合には瞳孔の収縮、意識混濁、痙攣などを起こし、死に至る場合もある。
経口毒性(LD50)はラットで17 mg/kg、経皮毒性(LD50)はラットで70.4 mg/kgである。  日本では、ジクロルボス樹脂蒸散製剤として、ゴキブリ・ハエ・蚊などの駆除を目的に一般用医薬品として販売されており、14歳以上であれば薬局・薬店で購入することができるが、劇薬に指定されているため譲受書に記入しなければならない。

2−8.回収品の横流し
08年8月6日、中毒事件発覚後、中国国内で回収された(日本への未輸出品)天洋食品製の餃子が流通し、その餃子を食べた中国人が中毒症状を起こしていたことが判った。
回収された餃子の保管状況 この事実により中国政府側は日本側の主張通りである可能性が大きくなった。
本事実は北京日本大使館を通じて日本政府に7月頃に伝えていたが、福田康夫総理大臣および高村正彦外務大臣は、この事実を中国側の要請により即公表しなかったことが後で明らかになった。

その後、余副局長は更迭され、また、質検総局の局長は自殺しているが、本事実の発覚は、新華社の英語版によって報道されたことによる。
報道によると、経営難に陥った天洋食品を救済するため、河北省国有資産管理監督委員会が、同省鉄鋼グループ(国有企業)に対し、売れ残った10万食以上の餃子の購入を指示したもので、餃子は同グループ傘下の唐山、承徳、張家口など各地の子会社で無料配布された。それを食べた複数の従業員が下痢や嘔吐などの中毒症状を訴えたものである。
09年3月、餃子を横流ししたとされる河北鋼鉄集団の王義芳社長は日本メディアの質問に対し「この事実はあなた方が作り出したものだ」と答え、横流しを含む中国国内での事実関係を全面否定した。

2−9.食品安全事件が多発する石家荘市とは
 河北省は北京を包み込む位置にあり、人口は約7,000万人で、GDP(域内総生産)は全国31省・自治区中上位の6位である。その省都である石家荘市は総人口940万人、市区人口は230万人であるから、市全体は日本の大阪府・市街地は大阪市に相当する。
1人当りGDPは市全体では2万元で、そのうち市区部は3万1千元である。この値は北京(7万元)、上海(6万元)に比べるとまだまだ低い位置にある。ましてや、農村部はかなり貧しい生活を強いられている状況にある。

河北省石家荘について

本事件の伏線として、07年アメリカ、カナダで中国製ペットフードを使用し、犬・猫などのペットが100匹近く腎結石を発症し、死亡する事件が発生し、アメリカFDAが中国河北省を訪問し、酪農家・集荷業者のメラミン混入が原因であると特定し、河北省、および石家荘市当局に「メラミンを摂取すると腎結石になる、搾乳にメラミンを混入することを禁止する」よう文書で要求した。
当局側がこれを無視し続け、メラミンの混入を黙認した結果が、重大人身事故につながった。あまつさえ、押収したメラミン混入製品の横流しを黙認した。石家荘市官・民のコンプライアンスの欠如が露顕したものであるといえよう。
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3.犯人逮捕の連絡

3−1.外務省への連絡
4月21日NHKニュース 10年3月26日、外務省に連絡あり、内容は;
◆犯人:呂月庭(36、河北省出身)天洋食品の元臨時工
◆犯行:注射器を使用し、ダンボールの上から、計3回注入
◆メタミドホス:工場内の清掃担当部署 で入手。使用後、近くの池に棄てた。
◆注射器:外径0.2mm以下の極細タイプ。社内診療所より入手。使用後、工場内の廃水溝に棄 てた。発見・押収済。注射器のメタミドホス付着は確認済。
◆注入:冷凍倉庫保管の完全包装製品。
◆犯行日:10月1日、同下旬、12月下旬
◆動機:容疑者の身分は臨時工で、正規社員との待遇の差が大きいことへの不満。妻の出産休暇の際、ボーナスが支払われなかったことへの報復。
◆逮捕時期:呂月庭を事件発生当初よりマーク。冷凍倉庫へ入れる人間は586人にも上り、犯人特定に時間を要した。

3−2.千葉県警、包装袋再検査の結果孔ありと訂正発表
10年5月11日、千葉県警が餃子包装袋の再検査結果を発表。中国側の犯人逮捕、犯行には注射器を使用したとの連絡を受け、保存していた千葉県2件の袋を警察庁科学研究所にて再精査した結果、両袋に1〜2mmの孔があることが発見した。
2年前の中毒事件発生当時は鑑識係員がルーペを使用して検査したために、孔があることを見逃した。今回は顕微鏡を用いて精査したものである。
本報道は11日早朝6時と7時のNHKニュースで報道されたが、その後、NHKでも、他の民報でもなぜか報道されなかった。
5月18日に至り、中井・国家公安委員長の談話として「中国の捜査がきちんとしていて、日本では杜撰であったとは恥ずかしい」とコメントした。

3−3.容疑者の周辺
天洋食品の工場は、外見は一流設備と技術を誇る大規模工場然としている。
容疑者の周辺 しかし内情は従業員1,000人であるが、正規社員は半数に満たず、残りは10、20代の出稼ぎ女性労働者ある。
天洋食品では、事件発覚前、従業員が低賃金・長時間労働に不満を持ち、労使トラブルが頻発。また、 07年末には中堅従業員(臨時工)14人が理由もなく解雇されている。
正社員の給料は2,000元、臨時工1,000元前後、有給休暇なし。正社員登用も難しく、「ほとんどが2〜3年で辞めていく」のが実態である。

容疑者呂月庭は地元中学を卒業後、数年間は畑を手伝い、20歳頃、石家荘に出稼ぎに出た。
25歳、出稼ぎ先で知り合ったと妻と結婚、娘と息子を授かった。実家に帰省するのは国慶節と春節の年2回だけ。天洋食品工場の食堂の責任者として10年以上、妻とともに1日13時間も働いたが、月給は約800元。仕送りは一度もない。
最後に実家を訪れたのは09年2月の春節で、妻子を連れての帰省、普段と変わらず、「工場がトラブルで閉鎖された」と話していた。

村は、人口1,000人ほどの農村。山腹に実家がある。ガスも電話もなく、裸電球がポツリと一つあるだけ。老夫婦はトウモロコシ畑を耕し、年収2,000元の貧しい暮らし。容疑者には、父(66)と母(61)、姉(40)と妹(32)がいる
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4.公安説明の疑問点・矛盾点

4−1.注射器
公安説明:針径0.2mm以下の特殊な極細タイプ。工場内診療書所の廃棄物から入手。石家荘市内では入手不可。
注射器と注射針への疑問極細タイプ使用理由:ダンボール、包装袋の孔を流通段階で見咎められないため。

疑問点:
◆注射器
日本でも0.2mm以下の超極細タイプは特殊医療機関で使用するのみ。
・天洋食品工場内の診療所では如何なる理由で特殊注射器を使用していたのか?
・犯人は、偶然廃棄物の中から見つけたとは考え難く、診療所では普通に使用していたと見做せるが?
◆注入困難
−20℃の冷凍倉庫の暗がりで針を曲げずに注入できるか
・ダンボールは輸出用タイプで厚く、丈夫
・餃子は冷凍されていて硬い
・メタミドホスを検出した袋の数から推定し、1本の注射器で最低5,6回差込み注入する必要あり。

4−2.使用薬物
公安説明:中毒発生当初、メタミドホスは07年1月販売・使用を禁止しており、市中に存在しないと強弁していた。
・容疑者は工場内清掃部門から入手した。
・ジクロルボスの使用には触れていない。

講座風景

疑問点・矛盾点:
◆メタミドホスの入手
工場内清掃部門で入手したということは、古いものが廃棄せず残っていたということではなく、常時殺虫剤、殺鼠剤として使用しており、棚など目に付きやすいところに保管してあった。容疑者はそれを知っていた。
◆押収注射器内にメタミドホスが残っていたことを確認済
・メタミドホスは易水溶性で、2年間、常時排水が流れる環境下で排水に洗われなかったのはラッキー。注射針が非常に細く、外部から水が浸入するのを防げた。
・分解寿命は、水中での半減期は27日。注射器の内容物はメタミドホスの水溶液であるから、水が存在する状況下にある。この状態下、2年間で、毒物は殆ど分解していたと思われる。
・注射器の内容物は直接化合物、分解残基(アミンNHCO、SO2、燐系化合物、各元素)であろう。中国公安では如何なる分析法を用いたか分からないが、単純にP(燐)とS(硫黄)が検出されたことで、メタミドホスと特定したのではなかろうか。下水溝にはメタミドホス以外に、常にP,Sの含有物は存在しており、毒物からのP.Sであると特定するのは乱暴なように思うが。
◆ジクロルボスの注入
コープ会津販売品では餃子の皮からジクロルボスが110ppmも検出されており、これと製造日が同じ製品で、宮城生協で2件の異臭クレームがあった(トルエン臭)。
ジクロルボスについての説明がないのは、別犯人の犯行なのか?

4−3.犯行時期
公安説明:10月1日、10月下旬、12月下旬の3回実行

疑問点・矛盾点:
◆千葉県中毒品
10月20日製造、10月23日工場出荷であるから、工場冷凍倉庫内での保管は20,21,22日の3日間である。10月下旬とは具体的にいつなのか? 中国の感覚では、一般に下旬とは25日以降を指すようであるが?
そうであるなら、千葉県品は犯行できなかったことになるが。
講演中の塩崎講師◆コープ会津品
製造日は6月3日、工場出荷日は不明であるが、同じ製造日の宮城生協品は10月初めに異臭クレームを受け付けていることから、日本入荷は遅くとも9月中旬である。容疑者が自供の3回の犯行日には合致しないが。
内容物のジクロルボスの件とも考え合わせると、コープ会津品は別人の犯行か、あるいは呂容疑者が犯行を隠していることになるが?

4−4.犯行の動機
公安説明:容疑者の身分は臨時工で、正規社員との待遇の差が大きいことへの不満。妻の出産休暇の際、ボーナスが支払われなかったこと等への報復。

疑問点:
◆この程度の不満で人が死ぬかもしれない重犯罪を犯すであろうか?
 中国で、従業員を解雇する場合、報復手段として、PC制御工作機械、成形機のシステムをいたずらされないよう注意するのが普通であり、可能性なきにしもあらず。

4−5.逮捕時期
公安説明:呂月庭を事件発生当初よりマークしていた。冷凍倉庫へ入れる人間は586人のも上り、犯人特定に時間を要した。
事件発生当時、呂が妻や知人に自分の犯行であることを漏らしていたと多数の証言を得ている。

疑問点:
◆容疑者の人権無視は中国公安の特技であり、誤認逮捕など朝飯前のはずであるが。2年も待って多くの証言を得、容疑を固めてからの逮捕とは信じられないが。
◆09年1月17日、中国当局が警視庁に対し、容疑者とみられる元従業員を数ヶ月に渡って拘束していたことを伝えている。この容疑者は呂月庭とは別人であると考えられる。
◆根拠:09年春節(1月末)に家族で呂の実家に帰った際、呂は両親に工場はトラブルで閉鎖されたが、何とか頑張っている旨話している。
◆塩崎推測:・天洋食品は現在の工場から移転してでも操業を再開したい旨、石家荘市当局に泣きついた。その際、事件解決にはスケープゴートが要ることを示唆された。
・上海万博に各国元首が中国を訪問するが、その際、中国は法治国家。食の安全性を示す必要性あり。
・天洋食品は現在の工場から移転し、操業を再開したい
・麻薬犯罪死刑囚(日本人は10近く)の刑の執行を急ぐ必要性あり。

4−6.千葉県警の訂正
千葉県警の説明:中毒事件発生時、鑑識員が袋をルーペで検査したが、今回は科学研究所で顕微鏡を用いて精査した。両袋とも1〜2mmの孔がそれぞれ一箇所見つかった。

疑問点:
冷凍餃子中毒事件の経緯◆日頃、鑑識に精通している係官が1〜2mmもある孔を見逃すとは考えがたい。
◆中国側の説明では、極細注射器を使用した理由としてダンボール、包装袋に大きな孔が残ると、流通過程で発見されやすい。それを防ぐためとあるが、千葉県警が発表した孔は大き過ぎ、中国側の説明と明らかに矛盾するが
◆針径0.2mmの注射器で1〜2mmの孔を残すには、図のように袋に挿入後、針をぐりぐり廻し、袋を押し広げる必要がある;
針根元はダンボールでホールドされており、先端は冷凍の硬い餃子に刺さった状態で針をぐりぐり廻すことは困難。
包装袋はプラスチック製で、弾力性があり、押し広げるのは困難。
孔の周辺を顕微鏡で精査すれば押し広げた状況は観察できると思うが、それについての説明はない
中国からの食品輸入
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5.冷凍餃子の輸入

5.冷凍餃子の輸入
中国からの食料品の輸入額は06年に9,300億円で、この20年間で4倍に拡大している。中国産食料品の輸入シェアも90年の6.1%から06年の16.4%へと2倍以上となった。
ところが、近年、冷凍餃子中毒事件や冷凍インゲンの農薬汚染中毒事件の発生などで、消費者の中国産食品の安全性が大きく揺らぎ、中国からの食料品の輸入に暗い影を投げかけている。中国からの輸入量は右図に見る如く、07年をピークに、08年、09年と輸入実額、対世界シェアともに大きく落ち込んでいる。

08年秋のリーマンショック以来、日本の貿易自体落ち込んでいるので、中国からの食料品も落ち込んでいるとの見方もできようが、日本が全世界から輸入する食料品のうちの中国のシェアが落ち込んでいる状態を考えると、冷凍餃子中毒事件の影響が小さくないことが検証できる。
従来、中国からの輸入食料品の中で金額的に最も多いのは、魚介類(冷凍まぐろなどの冷凍品やエビフライなど調理した冷凍食品を含む。以下同様)であり、野菜がこれに次いでおり、両者を合わせると半分以上である。
これら品目の中国産シェアでは、野菜が5割程度と最も多い。魚介類と果実が15〜20%程度とこれに続いている。穀物類は米国やカナダ、肉類はオーストラリアからの輸入が多いため、中国産のシェアは1割以下である。
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6.麻薬犯罪での日本人死刑執行

6−1.背景
◆増え続ける麻薬犯罪
増え続ける麻薬犯罪 05年⇒08年のわずか3年で約3倍に増加しており、これには外国人の関与が急増している。
09年、中国人死刑囚7人の刑を執行したが、外国人については、50人近く、死刑が確定しているにもかかわらず、執行できずにいた。これにたいし、国内世論が不公平との批判が強く、昨年12月、イギリス人の死刑を執行した。
中国での欧州市民の死刑執行は過去50年で初めてで、ブラウン英首相は声明を発表し、「最大限に強い言葉で非難する」との異例の強さで中国政府への反発を示し、また、人権上、死刑刑罰を廃止している押収各国に働きかけ、再三再四に亘り中国政府に恩赦の適用を働きかけていた。
 英国人死刑囚は07年9月、タジギスタンの首都ドシャンペからウルムチ空港に到着した際、スーツケースから430gのヘロインが発見され、逮捕されていた。最高人民法院は英国の批判に対し、「わが国への大量のヘロインを密輸した罪は極めて重い」と死刑執行を許可したと述べている。

◆急増する日本人運び屋
中国で、麻薬密輸容疑で逮捕された日本人は、09年、1年間で上海、瀋陽、大連、広州など6空港で9件13人(含む女性1)にも上る。
彼らのほとんどは、暴力団や覚せい剤の密売組織とは無関係の退職者や失業者、ホームレスで、見知らぬ人物に数十万円程度の報酬で頼まれたものである。09年11月、上海空港の手荷物検査場で1.5kgの覚せい剤を隠し持っていて逮捕された20歳代の男性も、新宿で暮らすホームレスで、公園で見知らぬ男に20万円で頼まれ、偽造パスポートや渡航費を渡されていた。

13人のうち1人は覚せい剤約7kgを運ぼうとして香港で起訴され、懲役20年の実刑が確定している。残り12人は、4人が公判中、8人は公判待ちである。しかしながら、12人の容疑者の、覚せい剤密輸量1〜7kgと、いずれも1kgを超えており、死刑を含む重罪に問われる可能性が大きい。空港での麻薬検査
10年5月12日、青島空港で覚せい剤2.5kgを日本に密輸しようとした日本人が逮捕された。その詳細はわからないが、薬量は2.5kgであるから、本容疑者も死刑の判決を受ける可能性が大。

6−2.麻薬犯罪の刑罰
中国刑法(毒禁法)では麻薬の製造、運搬、販売、密輸に関する罪は重罪で、50g以上の密輸で「懲役15年以上〜無期懲役、または死刑」と規定。判例では1kg以上は原則死刑。薬物の種類としてはヘロインなどの麻薬類が最も重いが、覚せい剤でも死刑となった例も珍しくない。
中国以外のアジア諸国については、シンガポールでは15g以上のヘロイン、30g以上のモルヒネ、500g以上の大麻、250g以上の覚せい剤等の所持・密売・密輸で死刑になる。タイやマレーシアなどのアジアの諸国では、一応に麻薬に対しての刑は厳しく、死刑になる可能性が大きい。

6−3.麻薬犯罪での日本人死刑囚の刑執行
赤野光信死刑囚(65、大阪府)、3月29通告・4月6日執行。
中国で日本人に死刑が執行されるのは72年、日中国交正常化開始後初めてである。
赤野光信死刑囚は、覚せい剤2.5kgを、うち赤野死刑囚自身は1.5kg、共犯者(懲役15年、服役中)が1.0kg所持していた。
武田輝夫(67、名古屋市)、鵜飼博徳(48、岐阜県)、森勝男(67、福島県)3人、4月1日通告・4月9日執行。
 武田死刑囚は04年6月、広東省で覚せい剤3kg余を所持・拘束。複数の日本人らを「運び屋」にして覚せい剤を日本に運搬させる密輸組織の「元締」とみている。
鵜飼死刑囚は03年7月、覚せい剤1.5kgを大連空港から関西空港に運ぼうとして拘束。07年8月に死刑判決確定していた。
森勝男死刑囚は武田に雇われた運び屋。
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7.売買春犯罪

売春買春の舞台 日本人がアジア諸国を訪問し、軽く見て、犯しやすい犯罪に「売買春罪」がある。

7−1.日本企業の集団売春で中国斡旋者等5人が死刑に
03年9月、広東省珠海市で日本企業観光客が、集団買春を行ない、日本企業の担当者が売春婦185人の買春費用として総額で約30万元を支払った。
9月16日、宴会先の粤海ホテルでは、約300人のコンパニオンが同席し、飲食の接客を行った。その場で企業側の責任者が売春婦一人当たり、一回のサービス:800元、一夜1,200元を支払うよう指示。
斡旋者のバー経営者の自供で、「稼いだ斡旋料のうち、半分は地元公安当局高官に「上納」するのが慣習となっている」。今回、金(みかじめ料)を受取った珠海市警察副署長ら2人も拘束された。
売春斡旋の女性経営者ら3人と地元公安当局高官2人の計5人が死刑判決を受け、08年3月、刑が執行された。
広東省公安部は、日本企業のH、T、Fの3人を、国際刑事警察機構(ICPO)に、「組織買淫罪」で国際手配し、日本政府に犯人の引き渡しを求めている。

7−2.売買春の刑罰
刑法の規定によると、「管理売春、または他人に売春を強制したものは、5年以上10年以下の懲役、並びに罰金に処す。ただし、以下の状況下で行ったものに対しては、10年以上または無期懲役、並びに罰金もしくは財産没収とする」。「組織売春を行ったもの、多数の者に売春を強要、もしくは多次にわたって強要したもの」は、さらに刑罰が加重される。 「売春の勧誘、収容(場所の提供)、紹介などを行ったものは、5年以下の懲役、拘役(強制労働)、並びに罰金に処す」。
 
03年9月の集団売春事件での判決では、売春の舞台となった珠海国際会議センター大ホテルのスタッフや、同ホテル内ナイトクラブの経営者に、売春勧誘・収容罪が適用された。また、「旅館業、飲食業、娯楽業、タクシー業などに従事するものが、その身分を利用し、売春を組織、脅迫、勧誘、収容、紹介など、売春行為を行った場合、特に、その者が職業上重大な地位にあった場合、もしくは前科があった場合には、厳重に処罰する」が適用され、死刑判決となった。

7−3.その他
◆婚姻関係にない男女のホテル同宿は違法
外国人の場合:初犯の場合は、釈放に5,000元×2の保釈料が必要となる。。

◆麻薬、売買春の一掃大キャンペーン
下のようなマークがキャンペーンの言葉です。掃毒が麻薬犯罪一掃の意味で、掃黄が売買春犯罪一掃の意味です。

麻薬、売買春の一掃大キャンペーン





文責:塩崎哲也
会場写真撮影:橋本 曜
HTML制作:臼井良雄


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