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2010年8月20日 神田雑学大学定例講座No.519

元気な大学と技術者教育 講師、高田 敬輔

講師 高田 敬輔



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1.はじめに
2.見えない技術者の仕事
3.大丈夫?日本の産業と技術
4.技術者問題と望ましい技術者像
5.元気な大学の「自ら考え行動する技術者」教育
6.「教育付加価値日本一」を目指して
7.やる気を引き出す初年次教養教育
8.ものづくりの総合的実体験「プロジェクトデザイン教育」
9.技術者教育の雑感「知識を知恵に、知恵を創造に」



1.はじめに

高田講師の写真  日本経済の「失われた20年」が続き、技術力沈下も止まりません。今活躍する技術者もすでに団塊ジュニア世代となり、成果主義、非正規雇用化などの技術者環境の変化に揺れています。大学生は新人類ジュニアを含むZ世代と言われ、少子化、ゆとり教育の影響を受けており、大学の学力レベルも急降下したと言われています。

 そんな中、就職氷河期にもかかわらず、依然95%以上の就職率を維持し、朝日新聞出版大学ランキングでは学長からの教育分野評価1位、総合2位という元気な大学が北陸にあります。「行動する技術者=学力X人間力」という教育目標のもとにロボコンでも毎年に上位入賞、技術者としての素養を初年度から叩き込む独特な教育により着実に成果をあげています。

 そこで今日は、やや社会系講座となりますが、最近の産業界の事情と、私が10年弱非常勤講師の眼から垣間見た教育現場事情をお話しさせていただきます。

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2.見えない技術者の仕事

フラップ・見えない技術者の仕事

 さて、日本の就業者総数6,100万人のうち、技術者は230万人(3.7%)、科学研究者は14万人です。科学研究者の仕事は理解できても、「技術者ってどんな仕事するの?」と聞かれると、うまく答えられません。科学者といえばアインシュタインや湯川秀樹、技術者と言えばエジソンや本田宗一郎とでると分かりますが、技術者は企業で組織の一員として働きます。

 製品を開発設計する人も、製品をつくるための設備や製造技術に携わる人も、品質管理やサービスする人も、営業技術もみんな技術者の仕事と看做されています。
 技術者は英語ではエンジニアですが、日本の技術者には英語でいうエンジニア(設計、企画する人)のほかテクノロジスト(CADのようにツールや設計方法に基づいて仕事する人)、テクニシャン(熟練作業者)が含まれています。

 見えない仕事、文系との賃金格差、きつい、地味、責任が重いなど若い人には人気がなく、大学の工学系学部への進学者も少なくなっています。しかし、技術者の仕事は「創造する喜び、趣味と仕事の一致、社会貢献、定年まで安定に働ける」など魅力的と思いますが・・・

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3.大丈夫?日本の産業と技術

フラップ・大丈夫?日本の産業と技術(

 「Japan as No1」の時代はとっくに去り、いまや1990年1位だったIMDによる国際競争力は27位、GDPも中国に追いつかれました。
 メモリや液晶パネル、DVDプレーヤー、カーナビなど独占的シェアを占めていた先端技術製品もあっという間にシェアダウンしています。
 新興国の台頭、製造の海外シフトなど技術者の問題でないかもしれませんが、技術者がマーケットにも強い関心を持って技術の優位を維持することも大切です。

 「ガラバゴス携帯」と言う言葉があります。日本では約5,000万台を数社が新機能を付加した新製品を市場に投入しながらシェア争いをやっていますが、全世界では15億台生産され、ノキアが36%、モトローラが14%、サムソン13%など、1社で日本の全生産量をゆうに超える生産量を誇る企業があるわけです。
 日本が国内で機能競争をしているのに、世界では電話とメールで十分な単機能携帯でシェアをとっています。

 アップル社ではiPoneやiPadなど商品企画と設計だけで、自社ではすべての製造を海外に依存する戦略をとっており、そんな企業が増えています。日本が長年培ったモノづくり技術に頼らなくても、あれだけのものが出来ると云うことですので、「技術立国」って何だろうと思わざるを得ません。
日本技術は改良、品質、製造技術には強いが「マーケッテング、スピード、総合化・統合化」等に弱いという課題を抱えています。これは従来の技術概念に固守せずにマーケットやビジネスモデルも技術者の仕事であることを示唆しています。
 政府は新成長戦略として環境、エネルギー、健康(医療介護)、科学技術情報など7つの戦略分野で133兆円、500万人の産業創出を計画しています。
 新しい技術課題も出てきますし、技術者も柔軟に対応しなければなりません。

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4.技術者問題と望ましい技術者像

フラップ・技術者問題と望ましい技術者像

 バルブ崩壊以降技術者を巡る環境が厳しくなっています。利益優先主義、グローバル化、成果主義、人材育成、組織、製品の短寿命化などにより、技術者のマインドも全般に落ち込みがちと言うところです。 毎年新入社員意識調査というアンケートの結果が報道されますが、終身雇用、年功賃金という安定志向が50%に増え、起業志向が13%と減りました。
(日本生産性本部; http://activity.jpc-net.jp/detail/mdd/activity000979.html )

 「企業の寿命30年」説はいまも健在ですし、われわれの周りの製品や技術を見渡しても日進月歩ですので、定年までの40年ほどを安心して勤めることは個人も企業も容易なことではありません。まして同じ技術をもち続けることは考えられません。会社人生2毛作と覚悟すべきでしょう。2毛作を認識するなら、技術者は自分自身がキャリアプランを考え、人生を通じて何をやるか、そのためにどんなことを準備すべきか考え行動する必要があります。

企業の中心世代は団塊ジュニアに
 最近、「人づくり危機「不安3世代」」(日経ビジネス2010.6.4号)という記事が出ました。
 1986-1992年入社は身勝手な管理職「バブル入社世代」、プレイングマネージャーのまま頼りにならない上司。
 1993-2005年入社は意欲低下した「就職氷河期世代」、3人に1人が仕事に絶望感をもち責任を負いたくない。
 2008年以降入社は安定志向の草食系新人「ゆとり教育世代」、安定志向50%、叱られ経験のなし40%。

 団塊の世代が去り、新人を育成する課長就任のほとんどがバブル入社世代、成果主義のプレシャに汲々とし、指示待ち型の新入社員の教育には辟易という光景が目に浮かびます。新しい人材育成システムを確立しなければなりません。
 望ましい技術者像というのは会社が求めるものと、新人が配属された組織が求めるものとは必ずしも一致しませんし、個人が成りたい技術者像も別にあるはずです。
技術者として基礎的学力と仕事をやる上での業務遂行能力は最低必要な素養ですが、一人ひとりが技術者像をもちキャリアを積むことが出来るような支援の仕組みを抜本的に考えるべきと思います。

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人間力と「社会人基礎力」

フラップ・人間力と「社会人基礎力」

 企業では採用試験において、学力だけでなく、積極性やコミュニケーション能力など人間力を評価し採否を判断します。
そこで、経産省では組織や地域社会で多様な人々とともに仕事を行っていく上で必要な能力を「社会人基礎力」と呼び、それらを3つの能力と12の能力要素として明示しました。大学にも企業にもこれら能力を向上する動きが始まっています。
   日本の大学は1990年代に教養科目の授業が減り専門科目偏重のカリキュラムとなったため、社会人基礎力を高めるための教育がこれからの課題と言えます。

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5.元気な大学の「自ら考え行動する技術者」教育

フラップ・元気な大学の「自ら考え行動する技術者」教育

 これからは私の奉職した金沢工業大学のユニークな技術者教育についてお話しさせていただきます。
「教育付加価値日本一」を目指した教育改革が着実に成果を上げ、最近のトピックスでも、
1)昨年度の就職率は95.4%、そのうち上場企業、大企業、公務員への就職者比率は56.1%
2)朝日新聞出版が毎年実施している大学ランキングでは、学長による評価が教育分野で6年連続第1位、総合2位、高校評価では総合16位
3)7月開催されたNHKロボコンでは優勝し、エジプトのABU・アジア大会に出場します。
 ひとくちに言えば技術者になるには、知識だけでは役に立ちません。知識を知恵に変え、泥にまみれてモノづくりに参画する素養を身に付けなければならないのです。
そこで金沢工大は「自ら考え行動する技術者」の育成を目指して、全学あげて教育・研究に真摯に取り組んでいます。
全国大学のモデルにもなっている、初年次教養教育、モノづくりの総合的実体験型創成教育であるプロジェクトデザイン教育や夢考房プロジェクトなどを紹介し、私の大学授業体験の感想を述べてみたいと思います。
   金沢工業大学  http://www.kanazawa-it.ac.jp

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6.「教育付加価値日本一」を目指して

フラップ・「教育付加価値日本一」を目指して

 私が大学に入って「教育付加価値日本一」という言葉をよく耳にしました。
 あるとき親しい先生に「教育付加価値ってなんですか」と聞いたところ、「入学偏差値の高い学生が上場企業に就職するのは当たり前、入学時偏差値が低くても、上場企業に就職できるように一人一人を教育する。これが教育付加価値です」と言われ納得しました。
 「教育付加価値=(卒業時レベル)―(入学時レベル)」と定義すればよいわけです。
 入学時レベルは偏差値と考えられますが、卒業時レベルでは上場企業や大企業、公務員等への就職率も指標にもなりますが、もっとも大切なレベルは行動できる技術者であるかどうかです。この大学でこれをやりたいという、はっきりした目的をもった優秀な学生も沢山集まっており、大学ブランドで学生を見る風潮はやめたいものです。
 そこで、技術者としての「総合力=学力X人間力」という評価方法を大学考え、取り組んでいます。たとえば学力9で人間力1なら総合力は9、学力5、人間力5なら総合力25となります。

企業が求める人材像
フラップ・大学の人間力教育

 企業がどんな学生を求めているかというと、日経連のアンケートからも明らかです。コミュニケーション能力、主体性、協調性、チャレンジ精神など上位項目はいずれも人間力に関係するものばかりです。総合力という観点から技術者を評価していることがよく分かると思います。

◇学力については各専門学科の先生方が取り組みますが、数学、物理など基礎学力については数理工教育センターを設け、30人のスタッフがいつでも個人指導に応じています。このプログラムは文科省教育GP(Good Practice)にも選ばれています。

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7.やる気を引き出す初年次教養教育

 ほとんどの国立大学の教養部が1991年に解体したことが、専門能力偏重をもたらしたとされ、教養教育の必要性が見直されています。 そんな中で金工大で実施されている初年次教養教育カリキュラムが人間力形成に成果を上げています。「技術者入門」、「科学技術者倫理」、「人間と自然」「日本学・・・日本と日本人」などのカリキュラムです。
「人間と自然は」能登半島にある海洋研修施設で2泊3日の合宿により、グループ討議とカッター帆走実習が行われます。「日本学」では聖徳太子、菅原道真、源義家なども取り上げられ、公の精神や日本人の勤勉さなどを考えます。

技術者入門のベストセラー教科書「技術者になること」
フラップ・大学の人間力教育

 1年次「技術者入門」という科目が必須です。新入生1、600人を企業出身の4人の教授が技術者とは何かから教える授業ですが、その教科書が飯野弘之名誉教授の書かれた「新・技術者になるということ」という教科書です。 日本の産業、研究開発、技術者としての個人の自立、ライフプランや資格、技術者倫理、世界との関係とイノベーション、技術者としての必須能力など、技術者として身につけるべき素養や資質について懇切丁寧に、しかも最新事例を組み込んで説明してあり、他の大学でも使われています。一般の企業人にも必読の書と思っています。

社会力と国語力を補う「週間レポート」
フラップ・社会力と国語力を補う「週間レポート」

 技術者入門では毎週新聞を読んで関心ある記事を1件30文字トピックスにまとめ7件+時事用語を自分の言葉で簡単に解説し、A4用紙にまとめると云う宿題が出されます。ほっておけば活字離れは進むばかりの学生にとって、読んだ内容をまとめると云うことは大変な苦労ですが、それが大切なのです。一人400枚ものレポートを点検する教授陣のご苦労も敬服に値します。
 授業のアンケートで注目すべきことは技術者入門の授業により「社会への関心」が高まり、技術者の仕事と責任が理解でき、勉強時間に至っては1日に2時間以上と答えた学生が88%出たということです。
 あるデータによれば都内有名大の学生ですら、1週間5時間以上勉強する人が40%ですので、このデータはよすぎるとしても、猛烈に勉強すれば有名大の力を凌駕するチャンスがあると云うことです。

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8.ものづくりの総合的実体験「プロジェクトデザイン教育」

フラップ・「プロジェクトデザイン教育」

 多くの工学実習が与えられたテーマにそって実験したり、成果物をつくったりするのに対し、金沢工大のプロジェクトデザイン教育はテーマとそこにある課題を自ら発見し解決策を立案、実証、発表するという、企業で実際にやっている手法そのままを学ぶグループ活動です。この教育を通じて創造性、チーム力、課題発見・解決能力、プレゼンテーション力、コミュニケーション力などが培われます。

 例えばソーラー発電携帯電話では、電池切れをなくしたい、室内でも充電できるという難題に挑戦し、太陽電池の実装の可能性を調査し解決策を見つけるプロジェクトになりますが、消費電力と発電効率、ソーラパネルサイズ等数値で可能性を探索しながら進める研究開発の模擬プロジェクトと言えます。
フラップ・チームで創る「ものづくり」の実践

創造の喜びとチームワーク「夢考房」
 ソーラーカーやロボコンのプロジェクトはモノづくりをチームで体験する、クラブ活動です。14のプロジェクトと企業と連携する6つのプロジェクトが進行しています。
「夢工房」ではなく「夢考房」であることが意義あります。
 一般の学生でも工具や設備を使ってモノづくりが出来、例えば自転車のパンク修理などは自分でやることが出来ます。設備の利用では使い方教育し作業別認定や安全教育も徹底しています。
フラップ・「夢考房」プロジェクト


NHK大学ロボコン優勝チームの事例
フラップ・新課題に挑戦するアイデアとチーム力

 夢考房プロジェクトのひとつにNHKロボコンプロジェクトがあります。テーマは毎年変わります。どんな課題にも対応できるよう技術を磨いておかねばなりません。 役割分担、アイデア創出から企画書作成、設計製作―評価・発表などすべて学生の自主活動で、さながら企業の開発PJです。先輩による後輩の1対1指導や、専門を超えた技術習得も計画的に実施され、まさに全員で取り組むチームプレーで、東大や東工大などの強豪を相手に優勝できたということは彼らの自信につながります。
(9月にエジプトで開催されたABUアジア大会では技術賞の栄冠を得ました)

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9.技術者教育の雑感「知識を知恵に、知恵を創造に」

会場風景

 学生は「ゆとり教育、ゲーム、マンガ世代」であり、読まない、書かない、考えない、触らない、計算しない・・・学力低下は否めませんが、金工大の学生は素直、まじめ、体験型、熱中型など元気で、初年度教育の効果もあって、技術者への意欲もあり、ものづくりの体験的理解能力は高いようです。
 授業をやって気のついたことですが、教科書にあることをすべて理解させようとすることはとても無理です。また数式をみて頷くようでは力となりません。
 理解しやすいようにパワーポイントを使っても紙芝居を見ているようで理解に至らないことなど苦い経験を何度も味わいました。そこで、本当に大切なことは何度も宿題を出し、何度も試験に出題するようにしました。

 金沢工大の技術者教育は一般に実施されている専門分野の技術教育に加え、人間力と業務遂行能力を身につけるための実践教育と評価しています。
政府も就職支援に力を入れていますが、俄の入社試験で合格するというよりも、本人の仕事に対する考えから、日ごろの学生生活を見据えた教育が大切です。
 日本のほとんどの若い技術者は実経験が乏しく、マニュアルがないと動かない世代とよく言われます。これは技術者に限った事ではありません。大学も企業も国も草食系になった若者の風潮を放置しないで意識して取り組んでくれることを願っています。

  高田敬輔 略歴
  1940年 石川県生
  1962年 金沢大学工学部卒
   同年   東芝入社、計測、制御、情報部門で商品開発、マーケッテング担当
  2000年 定年退社、ワイズ福祉研究所設立(代表)
  石川県関係企業の研究開発指導、産学官連携研究事業コーディネータ、
  金沢工業大学非常勤講師、金沢大学MOT塾講師
  2010年 金沢工業大学退任



文責:得猪外明
会場写真撮影:橋本 曜
HTML制作:大野令治


本文はここまでです


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