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平成23年2月4日 神田雑学大学定例講座NO542 


スポーツ審判あれこれ、講師:石井正行




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画鋲
神田雑学大学学長 三上卓治より講師紹介
1.はじめに
2.偏った判定(ホームタウン・デシジョン)
3.疑惑の判定
4.神様がくれた判定(運命の判定)
5.八百長(競技者が故意に負けること)
6.終わりに
7.質疑応答



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神田雑学大学学長 三上卓治より講師紹介

石井さんは神田雑学大学の大一回目の講師でして、当時アメリカズカップの審判をなさっていて、この時の状況を非常にドラマチックでスリリングなお話として聞いた思い出があります。石井さんは慶応大学のご出身でヨット界ではこの人を知らない人はいないというくらい有名な方です。オリンピックの代表選手にもなっておられます。

未だに国際的にヨット界では知名度が高い方で、あちこちの大きなレースの国際審判を頼まれていらっしゃいます。ご自身のヨット競技での審判の経験から、ヨットに限らず色々なスポーツの審判に関心があり、特に誤審についてはいろいろ研究をなさっておられます。誤審によって選手生命が絶たれる例もあり、政治問題になる例もあります。今日はそんなスポーツ全般に渡る審判の話、そしてどうしても起こる誤審の話をして頂きます。

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石井正行講師1.はじめに

石井です。ご紹介頂いたようにヨットばかりずっとやって来て、若い頃は現役でオリンピックや世界選手権にも行っていたんですが、そういう現役を退いたあとはずっと審判をやってきました。現役でレースをやっていた時間と審判をやっている時間が、ちょうど今半々くらいになっています。まあ現役を引いたと言いましたが、実は年をとっても参加できるレースもあり、そういうレースには今でも選手として出ています。

今日は「スポーツ審判あれこれ」という題なんですが、ヨットの審判については私も全部わかっているつもりですが、それ以外のサッカーだとか、ハンドボールだとか、柔道だとか、そういうところでも色々問題になった審判がありましたので、ヨットばかりでなくそれも取りあげてみたいと思います。これはテレビで見たり新聞で得た情報をベースにしていますので、皆様もご存じの方が多い話だと思います。

それと野球の審判については、東大のOBで清水さんという人が文部省経由で弁護士になった方なんですが、この方が東大野球部のOBで、非常に長いこと審判をなさっており、経験豊かで、色々な話を持っている方です。その人の話もご紹介したいと思います。

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2.偏った判定(ホームタウン・デシジョン)

2-1.中東の笛
スポーツの審判で一番皆さんの記憶にも残っているし、問題になったのは「中東の笛」という言葉でしょう。アラブ諸国が産油国でオイルマネーを使ってスポーツ団体に寄付したりしながら、王侯貴族だとか国営企業等が、オイルマネーの力でスポーツ団体の中枢を占めていた時代がありました。特にひどかったのはハンドボールの世界でした。ハンドボールはアラブのお金持ちがお金で団体の役職を手に入れてしまい、審判まで、自分たちに有利な判定をするような人を選んでいたようで、目に余る行為がずいぶんあったんです。

それで「中東の笛」という言葉も出来ちゃったくらいなんですが、一番顕著な例が2007年北京オリンピックのハンドボールアジア予選のクウェート対韓国戦です。これは日本の豊田市で行われたのですが、最初はIHF(国際ハンドボール連盟)の指示でドイツ人の人が審判をやることになっていたんです。

ところがAHF(アジアハンドボール連盟)、これはアラブ産油国ががっちり役員を握っているのですが、ここの横車があって、国際ハンドボール連盟の指示を無視して、ヨルダンの人を審判に持ってきました。この審判がひどくて、試合開始5分で韓国の選手をすぐ退場させたり、クウェートの人はファウルしてもほとんどペナルティにならないのに韓国の人はどんどんペナルティをとられて、あまりにもひどいので観客席からPETボトルがグランドに投げこまれると言うことがありました。

熱心に話を聞く受講生

同じようなことは同予選で、日本とクウェートガが戦った時にもあったのです。この時もドイツ人が審判をやることになっていたんですが、これもAHFの差し金でイラン人に変わったのです。あとで判ったのですが、このイラン人も先のヨルダン人の審判も、国際審判員の資格をもっていなかったのです。ひどいもんです。そういう人を連れて来て笛を吹かせて、クウェートやヨルダンが有利となる様な判定をしたのです。

それでこれはあまりにもひどいということで韓国と日本が共同でIHFに提訴したんです。IHFもゲームを見て知っていましたから、「アジア予選はやりなおせ」という命令が出たんです。それで各チームともやり直しの試合に参加するつもりで準備したんですが、AHFの人が「やりなおしの試合に参加したチームはAHFから除名する」と宣言したのです。ひどい話ですがそういうことを平気でやっていたのです。そんなことが「中東の笛」という言葉を残したのです。

応援する観戦者ハンドボールに限らず「中東の笛」は2007年の北京オリンピックの頃が一番ひどかったのですが、最初は1982年サッカーのワールドカップで「ゴールの取り消し」と言う事件があったのです。このあたりが「中東もの笛」の始まりで、ホームタウン・デシジョンとも言われる偏った判定をするジャッジが出てきたのです。

この時はフランスとクウェートの試合でした。フランスが3対1でリードしていた時にフランスの選手がのシュートが明らかにゴールに入ったのですが、それに対してクウェートの選手が審判にクレームをつけたのです。ネットも揺れたし誰が見ても明らかなゴールでした。クウェートのクレームは「観客席やラッパがうるさくて審判の声も聞こえない、だから試合を一時中断していたんだ。クウェートの選手がプレーをしていないところでフランスの選手がシュートしたんだから、取り消しだ」というものです。

試合中断と言う審判の指示もなく試合は継続していた時に、入れられたシュートですから、会場がうるさかろうが明らかに得点になるわけです。ところがそのクレームによって、観客席にいたクウェートのファハド王子(AHFの初代会長)がトコトコとピッチに降りて来て、審判になにやら話をしたのです。すると最初は得点と認めていた審判がすぐその場で「今のゴールは取り消し」と宣告をしたのです。それがテレビで世界中に放映されたのです。
それがもっとひどくなったのがハンドボールだったのです。

そういう自国贔屓の偏った判定、これはスポーツでは絶対あっちゃいけないことなんです。ところがそれに似たようなことがヨットの世界で、私の関係したアメリカズカップでもあったのです。

2-2.アメリカズ・カップの運営
これはジャッジが選手の行動に対して変な判定を下したということではなくて、運営の面での問題でした。2000年のアメリカズカップの時にイタリーのプラダというチームとニュージーランドのブラックマジックというチームが決勝に残りました。前にも話しましたが、アメリカズカップというのは、要するに莫大なお金がかかるレースなんです。ひとつのチームがレースに参加するのにだいたい100億強かかっているのです。70、80億くらいの予算で出たチームはまず絶対に勝てないのです。この時のプラダなんか120億くらいかけたそうです。それほどに力を入れたレースですから各チームとも真剣です。

最後の決勝の時に「斜めのスタートライン」という問題が起きました。陸上競技でも水泳でも直線コースのスタートラインはコースに対して直角です。陸上競技やスピードスケートでコースを何周も廻る場合には斜めにスタートラインが設定されるものもありますが、これはこれで外側の人も内側の人とイーブンなわけです。ところが、この決勝は「直進するレースなのにスタートラインを斜めに引いた」ような運営をしたのです。

講義中の石井講師これはイーブンではないわけです。簡単に言うとそういうスタートラインをニュージーランドの役員が自国の艇を有利にするために作ったのです。これではニュージーランドの艇が断然有利になってしまうのです。こんなことは普通のレースでは考えられない事です。ところがこれはアメリカズカップです。特別なのです。アメリカズカップの歴史は160年前に遡ります。

1851年というと日本では徳川幕府が鎖国していた時代ですが、英国博覧会のときに行なわれたワイト島一周レースにNYから参加したアメリカ号が優勝したことがきっかけです。アメリカズカップにはこの歴史に裏付けされたDeed of Gift(贈与証書)という一方的なルールがあったのです。アメリカズカップというのは、アメリカ号というヨットがイギリスでとったカップがあるのですが、このカップが名誉の象徴で皆欲しいわけです。

それでカップホルダーであるアメリカ号のグループは「欲しい人はいつでも挑戦してきなさい。私はいつでも受けて立ちます。」と言ったのです。そしてその時に決められたレースの条件がDeed of Giftです。そのルールはカップを持っているアメリカチームに非常に有利なルールが出来ていたわけです。ひとつは、挑戦してくる船は自分の国の国産艇でなくてはいけない。例えばイタリーの船は船体もマストも帆も全てイタリー製でなければいけないのです。

もうひとつは、このレースはカップホルダーの拠点、ニューヨークで行われていたのですが、出来あがった船は自力でその場所まで帆走してこなければならないというものです。例えばロンドンの艇はイギリスで建造されたら大西洋を渡ってアメリカまで自力で航行してレースに参加する、商船とか貨物船に積んで来てはいけないというルールです。このため大西洋を渡ってニューヨークに着いた時は船はもうボロボロにくたびれてしまうのです。ちょっとひどい話です。

挑戦者は勝てないルールが作られ、そのルールが150年くらいずっとまかり通っていたのです。色々な人が挑戦して、有名なのはイギリスの紅茶王サー・トマス・リプトンは5回挑戦してとうとう勝てませんでした。フランスのビック男爵も勝てませんでした。色々な世界の富豪たちが莫大なお金をかけて挑戦してくるのですが、このルールがあって勝てなかったわけです。それで戦後になって初めてこの不公平なルールを改めようと言う声が起こり、少しずつルール改正があり、ようやく1983年、オーストラリアのアラン・ボンドという人が挑戦して、初めてアメリカ以外の国が勝ったのです。

ルールが変わったから、アメリカ以外の国が勝てたのですが、長い歴史のなかで培われたルールの中で変わっていないのは「レースを運営するのはその時のカップホルダーである」という点です。ですからニューヨークでレースがある時はニューヨークヨットクラブがレース運営を行いますから、彼らは当然ルールの中で挑戦者が勝てないような戦略を考えてレース運営をするわけです。

それと同じようなことを、2000年にニュージーランドもやった訳です。ニュージーランドは1995年に初めて勝ったので次回2000年にはニュージーランドで試合が行われたのです。そしてその時も有利な運営をやって2000年も勝ってしまいました。その時もマスコミや色々な人からクレームは付きました。その時ニュージーランドの人役員が言うには「160年もの間アメリカがやってきたことと同じことをおれはやっただけなんだ」と開き直っていたのです。

斜めのスタートラインは別にルール違反でもないし、審判の判定がおかしいということも無かったわけです。ルール自身がおかしかったのです。最近はこのようなルールも改正されてきました。これは偏った判定とはちょっと違いますが、一方的に片方に有利になるようなことを平気でやっていたという例です。

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3.疑惑の判定

審判の明らかな偏った判定とまではいえないけれど、誤った判定、誤審だった可能性が高い判定というのはいくつもあります。ワールドカップサッカーでのマラドーナ選手の「神の手」発言、シドニーオリンピックでの柔道、篠原選手の内股すかし、など有名なものがありますね。

3-1.マラドーナの神の手
1986年のワールドカップメキシコ大会、準々決勝でアルゼンチンとイングランドが対決しました。後半の4分でイングランドの選手がシュートした時マラドーナがペナルティエリア内にパーっと飛んで行ったのです。それでキーパーとマラドーナが猛烈に競ったわけです。その時無意識か偶然かマラドーナの左手に当たった球がゴールに入ってしまったのです。これはハンドですから違反なのです。

試合中のマラドーナ

ところが審判はこれを見落としていたのかどうか、ゴールとして認めてしまったのです。世界中のマスコミはおかしいと言ったのですが、審判はそれを取り消さなかったのです。マラドーナは「俺はただ一生懸命やっていたら、たまたまそういう結果になっただけで、あれは神の手だ」なんて言って、「神の手」という言葉が出てきたのです。これなんかははっきりルール違反だということが後でテレビを見れば判るのですが、その場では試合を中断してテレビでビデオ判定なんてことは当時無かったわけです。

今でもサッカーのようにスピードがある試合ではビデオ判定は使いませんね。これは「中東の笛」みたいに審判がわざとやった訳ではなくて審判がうっかり見逃してしまったケースだと思うのです。

3-2.篠原選手の内股すかし
これと同じようなケースがシドニーオリンピックの柔道100kg超級決勝戦の篠原選手の敗退、これもどう見てもおかしいという判定でした。相手はフランスのダビド・ドゥイエでした。彼は大変強い選手で篠原のライバルでした。この時もダビド・ドゥイエが内股をかけて仕掛けてきたのです。その内股に対して内股すかしという技があるのです。相手が掛けてきた内股を利用して、自分も倒れながら相手を投げるという技です。これは非常に高度な技なので国によってはそれが有効な技と認められていないところもあるくらい、どちらが勝ったのか判らない難しい技です。

柔道は加納治五郎から始まって、日本が発生の国でその後世界中に広まっていったけれど、世界の柔道の審判にはまだまだ経験も浅く、日本から見るとかなり遅れている国が沢山あるわけです。僕はこの判定の時に知人の高段者にご意見を伺ったところ「あれは審判が未熟なんだ。あの技を見極められないような人に審判してもらいたくないよ」とおっしゃっていましたね。

この試合では、審判が3人いたのですが、一人の副審は篠原の一本勝ちと判断しました。もう一人の副審はフランスのドゥイエの有効だと判断しましたが、主審がやはりフランスのドゥイエの有効だということで、結局この試合は篠原は負けて銀メダルになったのです。ところがテレビを見ると篠原は自分が転がりながら相手を投げている。山下キャプテンなどが抗議をしましたが、結局通りませんでした。

その時僕は見ていて篠原は偉いなと思ったのは、皆が「あれはお前の一本勝ちだよ」もっと文句を言おうと言ったときに、「いやあれは私の力が足りなかったから負けたんです。」と言ったのです。「なぜなら例えドゥイエの有効があっても、まだ残り時間が30秒あった。その間に自分が一本取れば勝てたんだ。その残り時間で一本が取れなかったというのは私もまだ弱かったんだ」と言って、審判を責めないで自分が反省したんです。

僕は篠原は立派なスポーチツマンだと思いましたね。これも故意ではないでしょうが、審判の誤審の可能性が高い例でしょうね。この時は国際柔道連盟に日本から抗議をしたのですが、あとで連盟の理事会でビデオ見ながら分析して「これは篠原の一本という可能性はある。だが客観的に見てドゥイエの技も篠原の技も両方とも有効ではなかった。

この場面ではいずれにもポイントを与えるべきではなかった。だからあの時ドゥイエに有効ポイントを与えたのは誤審だ」ということを認めました。けれども試合の結果は覆られないのです。柔道は審判がいったん畳を降りれば、それで終わりでそれ以降はどんなことがあっても結果は覆さないというルールが国際柔道連盟にあるのですから。

3-3.2010年サッカーのワールドカップにおける誤審騒ぎ
去年のワールドカップでもイングランドとドイツ、アルゼンチンとメキシコの試合で誤審騒ぎがありましたね。イングランドとドイツの試合ではランパードというイングランドの選手がシュートして、それがクロスバーに当たって、それが下にドンと落ちた。その時にボールはゴールラインを越えていたのです。ところが得点は認められなかったのです。審判が越えたのを見ていなかったのです。外へ出たと思ったのです。ところが後でビデオを見ると明らかに入っているのです。これも後でそんなことを言ってもどうしようもなかったのです。

それとアルゼンチンとメキシコの試合でもアルゼンチンの選手がオフサイドに居たんです。そこで来たボールを蹴ってゴールに入れちゃったのです。それを審判はゴールと認めてしまったんです。本来ならオフサイドですから駄目なんだけれど、認めた。これもテレビで放映されました。この二つのケースが問題になって後でFIFAのプラッター会長がイングランドとメキシコに対して謝罪しました。しかし結果は覆ってはいません。謝っただけです。

サッカー協会ではこういう微妙な時には映像を持ってきてビデオで判定しなければいけないということを今考えているそうです。しかし試合の流れを考えると判定に時間をかけて試合を中断させるべきでないという意見もあって、揉めているそうです。審判も人間なのだから間違いもある、スポーツですからその位のミスは認める度量があってもいいのではないかという意見もサッカー界にはあるようです。

3-4.大相撲の立行司の帯刀
それと反対の意見で、みんな真剣にやっているのに、審判のミスでそんなことをされてたまるものかという意見があります。相撲がそうです。相撲はちょっとでもおかしいと見えると物言いがついて、勝負審判が土俵に上がって相談して決めますね。絶対にミスはあってはいけないというのが相撲の精神ですよね。

立行司が腰にさしてる短刀ですから立行司は短刀を腰にさしていますね。あの短刀はもし現場で差し違いがあったら、腹を切るという覚悟を示しているのです。そのくらいの覚悟がなくては審判は駄目なんだというのが相撲の世界です。

ちょっと話が横道にそれますが、私は日本でやるヨットのレースの時に、外国から国際審判員を呼んできますが、その外国から来た審判たちに僕は浅草の仲見世で売っているペーパーナイフをお土産にあげるのです。短刀のような形で白木の鞘に入っていて、本当の日本刀の短刀のように見えるのです。私がいつも審判をする日本カップは11月に葉山で行われるのですが、丁度そのころ大相撲があり、ホテルでそれをみんな見ているのです。

みんな審判ですから特に行司に興味を持つんです。ですからこのペーパーナイフをあげる時に、「行司が短刀を腰に差しているのに気が付いたか」と聞くのです。するとみんな驚くのです。あれはこういう意味なんだよと、外人に説明して、「もしミスジャッジしたら腹を切る。これが昔からの日本の武士道だ。おれは皆にこの短刀をプレゼントするから、お前ら明日の試合でミスジャッジしたらこれで腹を切れよ」というと「えー!」と言いつつみんな笑って持って帰るのです。

だいたい私はヨットの審判をしているせいか、どんなスポーツを見ていても、審判の動きが気になるんです。アンパイヤで一番大事なのは位置取りなんです。ですから行司の位置、サッカーやボクシングのレフェリーの動き、それに僕は興味があります。

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4.神様がくれた判定(運命の判定)

いままで僕が話したのは明らかにいけない判定。そして疑惑の判定でした。そうではなくて偶然に一つの流れのなかでやった判定が、結果的にものすごく大きな意味をもたらしたという判定があったという話です。

これは松坂大輔が高校3年の夏の甲子園でノーヒット・ノーランをした時の話です。それは1980年の第80回全国高校野球選手権で、準々決勝で横浜高校とP/L学園の試合で、両社強豪譲らず延長17回松坂は一人で250球を投げ、完投勝利をしたのです。ですからかなり疲れたと思います。その翌日準決勝で明徳義塾とやった訳です。その時は7回までは明徳義塾が一方的に勝っていたのです。

その時に横浜高校の渡辺監督が選手を集めて、「貴様ら勝つ気があるのか」と喝を入れたそうです。この話は、先程述べました友人の清水恒弘さんという審判から聞いた話ですが、彼は審判でその場にいたから、監督の声が良く聞こえたそうです。そうしたら横浜高校の選手が生き返ったように8回に4点入れて6対4になった。その勢いに乗って松坂が9回には出てきた。

ガッツポーズの松坂と駆けつけるキャッチャー松坂は連投連投で特に前日は延長17回で疲れていたので8回までは出ていなかったのです。その時の松坂の投球は凄い球だったそうです。9回に横浜はまた3点を取り明徳に勝ったわけです。その翌日が決勝戦でその相手が京都の成章高校、これも強いチームでしたが、ここで松坂のノーヒット・ノーランが出たのです。この時清水さんは一塁審判をしていたのです。成章高校は松坂の球が打てなくて、三振、三振ばかりだった。

その試合全部を通じてもしかしたらヒットだったかもしれないという当たりが一つだけ成章高校にあったそうです。それは打った球がワンバウンドで一塁ベースの方にいって大きく弾んで一塁ベースの上3m位を通過したそうです。一塁にいた審判の清水さんはそれを見てフェアかファウルか判定するのです。

ボールは直径7cmなのですが、それ一個分くらい外れていると自分は思ったそうです。でもホームランはポールがありますが一塁ベースにはポールは無いし3mも上を通るボールですから、球一つ分なんて極めて感覚的なものです。「フェア」と言っても誰も文句は言わない。そこで「フェア」といえば3m上空ですからファーストは捕れないのでヒットとなります。でも清水審判はとっさにファウルと判定したのです。

その結果ノーヒット・ノーランになったのです。これが4回だったから簡単にファウルと言えたけれど、もしこれが8回や9回で、見ている人が「これ新記録かもしれない。ノーヒット・ノーランになるかもしれない。」という意識になったときに、そういうボールが来たら審判はビビってしまうんではないかと言っていました。「あれは4回だったから言えたんだ。あの時にファウルと俺が言ったから結果としてノーヒット・ノーランになった。これは後でわかったことなんだ。あの時もし「フェア」と言ってヒットになっていればあの記録は樹立されず、彼の契約金は何千万円も違ったのかなと思うと、それが運命の判定だったのです。」

これは審判が自分の思惑でどうこうした判定ではなく、直感に従ったというケースでしょう。でも長い経験と技量に裏打ちされて、その直感が正しいということはあるのだと思います。
私はこれを神様がくれた判定といいたいと思いました。松坂は明るくて皆から好かれるキャラクターを持っていますから、神様がくれたんじゃないかなと清水さんと話しましたね。

松坂は学生時代練習嫌いで有名だったそうです。「サボりの松」というあだ名が付いていたそうです。彼が2年の時に横浜商業高校と試合をして彼はすごい暴投をしてそのお陰で横浜高校が負けたんだそうです。そこで松坂はすごく責任を感じて、いままで俺は練習しなくても凄い球が投げられるんだと天狗になっていたのが、謙虚に反省して、それから練習の虫になったそうです。その練習の成果で3年に甲子園で優勝し、プロでも活躍できたんです。
清水さんが言っていましたが、どんな才能のある選手でも練習嫌いの選手は駄目だと言っていました。江川は審判をから見ても、最高の素質をもつピッチャーだそうです。マウンドからホームベースまで18mあるのですが、審判が見ていてボールがベースに来る前にこれは低いなと思うと99%普通のピッチャーは低く外れてボールになる。ところが松坂と江川はそうではなくて、低いなと思った地点からボールがグーンと伸びて来てストライクになってしまうんだそうです。

総合力から言ったら江川の方が上だと清水さんは言っていました。江川はコントロールが抜群なんだそうです。最初に投げるボールはホームベース上ボール一個分くらいそれたところへ投げてくる。約7cmそれているからボールと言いますと、江川は彼特有のうすら笑いを浮かべて、「えー?今のボール?ちゃんと見てくださいよ」という顔でアンパイヤを見るんだそうです。

その次に江川は、あと3cm中に入れてくるんだそうです。それも3cm外れているんだから審判としてはこれもボールなんですが、でもさっきの顔があるもんだから、ついついストライクと言ってしまうんだそうです。江川は可愛くない。審判と駆け引きする。審判が江川に迎合してしまう。それだけ江川は松坂より良いものを持っていたが、江川は練習嫌いだった。それからバッターでも清原、彼も凄い素質があったそうですね。彼はスイングが早く、最後まで球を引きつけて打つことが出来る数少ない選手だったが、残念ながら練習嫌いだったそうです。

慶応の元塾長の小泉信三先生。あの人が言った言葉で「練習は不可能を可能にする」という言葉があって、僕はその言葉が大好きなんです。スポーツは練習の積み重ねで進歩するものだと私も思っています。

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5.八百長(競技者が故意に負けること)

いままでは審判の問題でしたが、今度は八百長の話を少ししましょう。
最近大相撲で問題になっていますが、選手がわざと負けるのが八百長ですね。今日もテレビでやっていましたが、現役の力士が勝ち星を売買する八百長をやっていたと疑われるようでは最早スポーツとは言えません。

あれは興行だ、お芝居だという論調もありますが僕もその通りだと思います。千秋楽で7勝7敗の力士が勝つ確率が異常に高いというのもなんか臭いですね。これは単に相撲だけの問題ではありません。過去にはプロ野球でもあったし、サッカーでもありました。

5-1.プロ野球での八百長事件
暴力団から八百長を頼まれて西鉄の選手が八百長をやった。その人は野球界から追放されました。そんな事件もあったしアメリカの大リーグでもあったそうです。1919年ワールドシリーズでブラックソックスというチームの人が八百長をやったということで有名な話です。それから台湾プロ野球でも90年代くらいから何度も八百長があって問題になっていました。

賭け事を政府が認めているのは競輪、競馬、競艇、オートレースですが、そういうゲームでは八百長は絶対にやっちゃいかんという法律があって禁止になっているわけです。そうでない野球や相撲でも、法律で禁止されていないからといってやっていいかと言うとやっていけないことは明白です。それでも我々の見えないところで無くなっていないのだと思います。

5-2.2000年アメリカズカップ予選でのConspiracy(共同謀議)
僕がアメリカズカップの審判をやっていた時、同じような問題があったのです。先程申しましたように、アメリカズカップは世界中の富豪が挑戦してなんとか勝とうとして競っているわけですが、これはプロの試合ではないですから勝ったからといっても賞金が出るわけでもない、ただカップを貰うだけ、それでもこのアメリカスカップはヨットの世界ではものすごい名誉なことなのです。

日本が1992年に初めてアメリカズカップに挑戦した時、日本は一個人で100億出すような人はいませんから、企業にスポンサーになって貰って金を集めたのです。それも一業種一社に限って1~5億円づつ集めたのです。そういう風にして莫大な費用をかけやっていますから、皆勝つために必死なんです。

2000年のアメリカズカップではどんなことがあったかといいますと、この時は11チームがアメリカズカップに挑戦していました。挑戦チームが11もあると、予選をやって上位6チームに絞るのです。その6チームだけで決勝をやって、そこで最後に残ったチームがディフェンダーのニュージーランドに挑戦するという訳です。

予選で11チームが戦うレースをルイ・ビトンカップといい、ルイ・ビトンがスポンサーなのです。11チームありますと大変な金をかけて良い船を作っているチームと、それほどお金が掛けられずに普通の船で来ているチームでは大きな差が出ます。ヨットでは船の性能のよいものに乗れば勝てるのです。この時も上位の5チームは下位の6チームとは全然性能が違う船を擁して、勝っていたのです。この年の一番の優勝候補はニューヨークヨットクラブのチームでした。ここには大富豪が沢山いて資金的に恵まれていました。
ヨットレース4枚の写真

そのニューヨークヨットクラブの艇が試合の途中で壊れてしまったのです。そしてそれを修理している間に2回くらいレースに出られませんでした。その分ポイントを失ってしまうのです。ですが2日くらいレースに出なくてもニューヨークヨットクラブは実力があるし良い艇を持っていたから、それでも問題なく予選は通過するだろうと、皆そう思っていたのです。僕もそう思っていました。

ところがそこでConspiracy、共同謀議があったのです。どんなことかというと、ニューヨークヨットクラブは優勝候補の筆頭ですから、これが予選で6チームの中に入って来ると、上位の他のチームにとっては脅威なのですね。ですから何とかして予選の段階でニューヨークヨットクラブを落としたいと言う気持ちがあるわけです。そこでこの時上位5チームに入っていたのが1位がプラダ、2位がたまたま日本、3位がサンフランシスコヨットクラブ、4位もサンフランシスコのセントフランシスヨットクラブ、5位がデニス・コナーのサンディエゴヨットクラブ、要するにアメリカ西海岸のチームが3つ入っていたわけです。

ヨットレースこの3チームがわざとフランスに負けたのです。弱いフランスにポイントを稼がせて予選を通過させ、強敵のニューヨークヨットクラブの予選通過を阻んだのです。フランスは船もよくなかったし、実力もそんなになかった。普通にやれば勝つはずなのに、西海岸チームは微風の時にわざと強風用の小さいセールを使って、戦ったのです。それでフランスはどんどん点を稼いだのです。

あの時はConspiracyと言われていましたが、西海岸のチームが共同謀議をして、自分たちがフランスにわざと負けてニューヨークヨットクラブを排除したのはスポーツマンとしてあるまじき行為ではないかという批判があったのです。その時にその3チームが言ったことは「俺たちはアメリカズカップに勝つためにここにきている。ベストを尽くした。俺たちにとってベストとはニューヨークが来ないことだ。」ということです。

八百長というのは勝てる力量を持っている選手がわざと負けて相手を勝たせることと言われていますね。このアメリカズカップで西海岸のチームがわざとフランスに負けたのはいくら戦略であったとしても、八百長と言えるのではないかなと僕は思うのです。こ時僕は見ていて思ったのは、アメリカではニューヨーク対西海岸という対立の歴史があると感じました。

ニューヨークは昔からアメリカを支配してきた都市です。西海岸は田舎っぺみたいに言われながら、だいたいニューヨークの言いなりになって来た歴史があるのです。ですから西海岸の人達は、ニューヨークに対して、強い対抗意識を持っているのです。そんな意識も底流にはあったような気がします。(Long standing feud between NY and Westcoast)
この挑戦者争いは結局プラダが勝って、挑戦者になりましたが、決勝では先程話しましたように結局ディフェンダーのニュージーランドが勝ちました。

5-3.八百長とは言えない?しかしなにか怖い話
これは八百長とは言えないかもしれないんだけれども1992年のルイビトンカップでの話です。その時はイルモロ・デ・ベネツィアというイタリーのチームとニュージーランドのチームが決勝戦に残りました。ニュージーランドはものすごく良い船を持っているし、いい選手も沢山いて本当に強いチームなんです。この決勝は最大7回までやるわけです。

4回目まではニュージーランドが3対1でイタリーに勝っていたんです。もう一つ勝てばニュージーランドの勝ちというところまで来て、第5レースでまたニュージーランドが2分38秒の凄い差をつけて勝ったんです。これで試合は終わった。ニュージーランドの勝ちとみんなそう思ったのです。ところがその時イタリーチームから抗議が出ました。その抗議はレース中の違反ではなくて、ニュージーランドの使っていたセールを張るポールが、ルール違反だったという抗議でした。

僕はその時審判でしたから、それを審議したんですが、結局確かにニュージーランドのポールは違反だったということで、そのレースはニュージーランドは失格になったのです。それで3対1だったのが3対2になったのです。でもまだまだニュージーランドは有利でしょう。
ところがあれだけワンサイドゲームのように強かったニュージーランドが、それ以来、負け続け、イタリーが2つ続けて勝って、逆転勝利してしまったのです。

それまでのレース運びが船の性能、チームの技量を見ていて、絶対にイタリーよりニュージーランドの方が上だと僕等みんなそう思っていました。ところがたった一つのクレームで、急に勝てなくなってしまった。「おかしいな、何があったんだろう?」と僕も思いました。何かあると思ったのです。

このレースが終わった後で、アメリカズカップも終わって、みな国に帰りました。その後で分かったのですがイタリーのイルモロ・デ・ベネツィアというシンジケートのチェアマンはイタリーのコングロマリットのオーナーで大富豪だったのです。ところがその人はマフィアと関係していたのです。アメリカズカップが終わって1カ月後だったですね。日本の新聞にも出ていました。その人がマフィアに追われてシシリー島まで逃げたけれど、とうとう逃げ切れなくてピストル自殺したという記事でした。

そういう人もアメリカズカップにタッチしていたのです。そういう人だからニュージーランドにクレームをつけて、テレビを買収して、そのテレビでばんばんニュージーランドの悪口を言う訳です。新聞にもニュージーランドの悪口をどんどん書かせましたね。でもニュージーランドの選手だって非常に芯の強い選手が多いのですから、テレビや新聞でなじられたくらいでくじけるような選手ではないわけです。

それなのに3回も連続で負け負け負けと来てしまったのです。僕はなにかあったなと今でもそう思っているのですが、それがなんだったか調べようがありません。なにせイタリアチームのオーナーは自殺してしまっているからです。僕はそのレースの審判でしたから今でも思うのです。ルール違反と言って僕がピーっと笛を吹くと、違反とされた艇はぐるっと1回転しなければならない。ところが1回廻っている間に相手はずっと先に行ってしまいますからまず勝ち目は無くなるわけです。

そのくらいアンパイアの笛というのは勝負に大きなウェイトを占めているわけです。バレーボールの審判などは笛を吹いてもサーブ権が移るだけで最悪1点ですよね。勝負への影響は24分の1です。ところがアメリカズカップで僕がピーっと吹くとまずそのチームは90%は勝てないのです。

ですからアンパイヤの責任は重大で、凄いプレッシャーがかかります。それがしかもマフィアに関係している人のチームだなんて、その時は知らないから平気で笛吹いていましたけれど、後でその記事を見てぞっとしましたね。下手したらズドンとやられたかもしれないなどと冗談ですが思いましたね。これは八百長ではないのですが、なにかありえないことが起こったという話です。

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6.終わりに

まあアメリカズカップなんかは莫大な費用をかけて名誉のために国を挙げて取り組むレースですから色々なことが起きるのです。他のスポーツにはこんな馬鹿げたスポーツはないと思うのです。一つの試合に出るのに100億も金をかけるなんてゲームはありません。自動車のF1だってそこまでは金がかかっていないと思います。

先進国の欧米の貴族や富豪は昔からそういうスポーツを楽しんでいたんです。日本が初めて1992年に参加した時は日本が高度成長でどんどん伸びていた時で、ハワイや西海岸の別荘やホテルを日本が買い占めたなんて顰蹙を買っていた時代です。僕がその1992年のアメリカズカップに行った時には、ジャパンマネーがアメリカズカップを奪いに来たという記事が新聞に出ているんです。嫌な感じでしたね。

そのころ宮沢喜一総理大臣がアメリカからもっとアメリカ製品を輸入しろと言われて、日本とアメリカでは労働に質が違うんだと言って、すごいジャパンパッシングが巻き起こったのです。でも私は今までの欧米諸国の富豪たちがそういう桁違いの無駄遣いをやって来たというのも一つの文化だと思います。ヨットレース一つに何百億かけるなんて東洋では考えられなかったですよ。

日本は特に勤倹貯蓄で遊びや道楽に100億なんて考えられなかった文化です。それが初めて1992年に日本も欧米の文化に溶け込んできたということで、一方でジャヤパンパッシングは起きたけれど、「ああ日本もようやく俺たちの文化の仲間入りをして来たな」という見方もありましたね。今は日本に代わって中国がそういう立場になって来ていると思いますけれどね。そろそろ時間ですからこの辺でやめましょう。
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7.質疑応答

質問:アメリカズカップでは何で100億以上お金がかかるのですか?
応答;一つの船を作るのにだいたい10億くらいかかります。一隻では練習にならないから最低2杯は作る。資金豊富なチームは3隻くらい作ります。そのヨットに乗る選手は16人なんです。それにスペアーを4人入れて、乗組員が20人になる。船を2隻作って練習するには40人の選手がいるわけです。

それとその船が壊れた時に修理をする大工さんだとかFRP関係のプラスチック加工屋さん、塗装屋さん、鉄鋼屋さん、電気屋さんだとか修理のメンバーも本職の人間が何十人かいます。更にセールメーカーや艇の設計チームも夫々10人以上が常駐しています。その人達の食事を担当する賄い婦さん、お医者さん、弁護士だとかそういう人が集まって100人以上の村ができるわけです。そういう人達に給料を払って全部喰わせるわけです。みな会社を辞めてこのチームに来ていますから、そのチームが雇っているわけです。5年くらいその状態でやっていきますからその人件費がかかるわけです。

そして試合が例えばニュージーランドのハウラキ湾であるということに決まりますと、今度は気象庁を卒業したような人を雇ってニュージーランドに住まわせるわけです。その人はュージーランドのハウラキ湾で大型のモーターボートを買って、毎日海に出て、波とか潮の流れとか天候のデータを作るわけです。そういう人を2,3人雇うのですが、その方々は家族を連れて向こうに住むわけですから、そこでも人件費がかかります。

それだけではなくて、船には修理に必要なドライバーとかペンチとか色々な工具を積んでいます。ヨットを速く走らせるためにはなるべく軽い方が良いわけです。ですから普通にあるものでなくチタンで特注した普通の何倍もする高い道具を用意します。それからキールと言って船のバランスをとるおもりがありますが、それがちょっとでも具合が悪いと作り変えなくてはなりません。これは一つで25トンもするものです。

日本から空輸する費用だけでも大変なものです。ヨットの帆でも、我々が乗っている普通のヨットでは1枚せいぜい50,60万です。ところがアメリカズカップの帆はひとつが何百万もするわけです。我々は1枚の帆を3~5年くらい使うんですが、アメリカズカップの連中は1カ月で取り換えるのです。それからマストだとかブームなどの部材は我々の船ではアルミで出来ていますが、彼らはカーボンファイバーで作るのです。

これはものすごく軽くて丈夫なんです。このカーボンファイバーのマストを作れる工場が無いんです。アメリカズカップのマストは30mくらいあって、下の方はかなり太く上に行くと細いテーパーのついたマストです。そういうマストを作る釜が日本に無いんです。それを三菱レーヨンに頼みこんで作って貰いました。それだけでも何億とかかります。それを蒲郡まで運ぶのも大変なんです。

質問:馬のレースはどうですか?
答え:そうですね。馬術はヨットに似たものがありますね。審判は難しいかどうか僕は乗馬のことはよく知らないのでなにも言えませんが、馬のレースはヨットに似ていますね。いい馬を持たなければ勝てないということです。先程の北京オリンピックでも67歳の法華津寛さんが馬術日本代表で行きましたね。私の後輩で馬術をやっている連中は「俺だって金があって、言い馬が買えたら出れるよ。あの人は金持ちだからヨーロッパでいい馬を買って乗っていたから日本では敵無しなんだ」と言っていましたね。お金のかかる道具を使うスポーツにはそういうハンディがあって体一つで戦う柔道とか水泳とかとはちょっと違うんですね。

私もヨットをやって来て良かったなあと思うことと、嫌だなあと思う所と二つあるんです。良かったなあと思うのは年をとっても出来る息の長いスポーツで、非常に健康的かつ頭脳的だと言うことです。嫌だなあと思うのはいくら技術があってもお金が無いためにいい艇が買えない、いいセールが買えない。下手なやつで金を持っている芸能人とか歯医者と、あいけね、ここにいたらごめんなさい。

そういう人が金に糸目をつけないでいい艇や装備を買うと、技術がなくてもそっちが勝っちゃうんですね。馬もそれに似ていると思うのです。僕は慶応大学時代、体育会のヨット部でした。学校当局から「馬とヨットは金食い虫だ」とよく言われましたね。他のスポーツはそんなにかからないし、野球なんかは試合収入が入る。ですから野球部が稼いだお金のおすそわけを貰って、僕等はヨットに乗っていたようなものです。

それとヨットと馬で似ているのはオリンピックの時の入場行進です。最近は入場行進もだらけてフリーになっていますが、昔はきちんと整列して同じユニフォームを着て入った来たのです。ところが国によって違いますが、ヨットと馬術の選手だけは、同じユニフォームを着ない国があるのです。馬術の選手は長靴とニッカボッカを履いて馬術用の帽子をかぶり貴族のスタイルです。それからヨットは海軍の高級士官みたいなブレザーコートを着て更新していましたね。そういう国が3、4カ国ありましたね。要は貴族のスポーツといったような思いあがりとかプライドみたいなものがあるのかも知れませんね。

司会:そろそろ時間ですから終えましょう。ありがとうございました。(拍手)




文責:臼井良雄
会場写真撮影:橋本 曜
HTML制作:和田節子


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