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2012年神田雑学大学定期講座No.592 第2回千代田区民講座


講義名 もっと知ってほしい、がんのこと
「もしも」のときに、かしこい患者になるために


講師 川上祥子(かわかみさちこ)

NPO法人キャンサーネットジャパン
一般社団法人ティール&ホワイトリボンプロジェクト



(クリックをすれば該当の項へ進みます。
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講師プロフィール

1.キャンサーネットジャパンとは

2.今の仕事に至るまで

3.がんを知る

4.がんの治療と現状について

5.がん患者さんが直面する問題

6.標準治療についての情報を得られる
推奨サイト

7.サプリメントや健康食品についての
信頼できる情報




 講師:川上祥子さん

講師プロフィール

1969年東京生まれ、神奈川に育ち、現在は埼玉県三郷市在住。 神奈川県立湘南高校から早稲田大学第一文学部に進学。

卒業後国際線の客室乗務員として4年間勤務後、医療に関心をもち、 1999年に東京医科歯科大学医学部看護学科入学、 卒業後は東京大学付属病院で放射線科病棟看護師として、がん患者の看護にあたる。

その後、都内のクリニック乳腺化学療法外来担当勤務を経て、2007年から現在、NPO法人キャンサーネットジャパン専任理事に。 キャンサーネットジャパンの活動には、2000年からボランティアの立場で参加してきた。

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1.キャンサーネットジャパンとは

Cancer Channelと、オレンジ色っぽい「がん体験者によるピアサポート」のチラシ NPO法人キャンサーネットジャパンの川上と申します。 スチュワーデスの仕事をした私がなぜ、医療の世界に入ったのかという話も少しご紹介しながら本論を進めていきたいと思っています。 みなさまに英語でCancer Channelと書かれたチラシと、オレンジ色っぽい「がん体験者によるピアサポート」 のチラシを配布してあります。 いずれも私が関わっている組織と運動の情報です。参考にしていただければ幸いです。

はじめに私が所属していますキャンサーネットジャパンのご紹介をしたいと思います。私たちはNPO法人で、 非営利活動を通して社会の課題を解決していくことを目的に設立されました。NPO法人といいますと非営利活動のイメージで、 いわゆるボランティアの団体のように認識されている方が多いのですが、私どもは文京区の湯島に、家賃をきちんとお支払しながら事務所を構え、 そこに私を含めたスタッフが毎日出勤をしています。法人として、社会保険証を従業員がきちんと持っている事業所です。

私たちには普通の会社に勤めているような勤務形態で、かつ社会の課題を解決するような活動をすることで、多くの方々の理解と賛同を得て、 寄付や事業をさせていただいています。 では、キャンサーネットジャパンは、どんな課題を解決しようとしているのかといいますと、キャンサーはがん、ネットはインターネットのネットで、 キャンサーネットとは、がんの情報を扱うNPO法人です。私たちの活動は、1991年に先輩方が立ち上げました。 当時はNPO法人という概念や法的整備がなく、任意団体として活動が始まりました。 20年前ですから、医療を取り巻く環境は今と全然違っていました。

当時は、特に医療情報という面で、ものすごく違っていたのです。セカンドオピニオンとかインフォームドコンセントという言葉を聞いたこともあり、 利用なさった方もいらっしゃると思います。 しかし、20年前はそんな言葉さえ、ほとんどの人が知らず、医師へのお任せ医療でした。医療に関する情報を患者や親族の方が知るのが難しくて、 先生にお任せするしかなかった時代でした。

でも、この20年でインターネットが普及して、だれでもキーワードを入れると、海外の最新の論文を読むことだってできるのです。 患者さんたちが多くの情報を手にして、自分の医療を選んでいく時代になってきたのです。それは良いことであると同時に、弊害といいますか、 いらぬ情報もたくさん出てくることになったのです。昔は情報がない、今は情報がありすぎる。そういう中で患者さんやご家族は、 どれが正しい情報なのか自分の頭で理解できない。間違った情報に惑わされてしまって、先生とのコミュニケーションもうまくいかない、 そういうことが問題として出てきています。

活動の当初は、医療の情報を全国の図書館に配ることから始まりましたが、今は正しい情報を伝えるべく、 悩んでいる患者さんたちに道案内をすることが課題になりまして、キャンサーネットのチラシにありますように、インターネットを活用して、 がん医療の正しい情報をあらゆる方法で必要な方に届けるという活動をしています。私たちのミッション、これはこの組織が何のために存在するのかということですが、私たちキャンサーネットジャパンは、 がん患者さんが本人の意思に基づいて治療にのぞむことができるように、患者の立場から科学的根拠にもとづくあらゆる情報発信を行っています。

そして、がんを体験された方とその家族、そして不幸にも患者を亡くされたご遺族の方、それからその支援者や医療者、医療関係の企業の方、 行政の方、ありとあらゆる方々に関わっていただいています。 そういう方たちと一緒に情報を伝える活動をしているのです。 私自身は、看護師というバックボーンがあります。私たちの団体は患者会ではなく、医療者や患者さんや企業出身の方など、 いろいろな人たちが集まって、みんなで考えていこうという会です。

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2.今の仕事に至るまで


スチュワーデスをしていた私がなぜ、看護師になったのかと興味をもたれたかもしれません。 私は国際線でしたので、仕事でいろいろなところへ行けたんですね。今は飛行機がすぐ戻ってきてしまいますから、十分な時間で、おいしいものを食べて、買い物をしてということも少なくなりましたが、私はちょうどバブルの時代も経験していて、いい思いもし、もしかしたらちょっといい気になっていたかもしれません。 そうしたことで、いろいろなところに行きつくしてくると、「私の人生このままでいいのかな」なんて思うようになりました。 お仕事としては楽しかったのですが、接客の時間は長くても十数時間です。
「熱心に聞き入る受講生」
「ありがとうございました」「楽しかったよ」と握手して降りて行かれるかたもいらっしゃいます。うれしいですが、 「もしかして、私じゃなくても、代わりのひとはいくらでもいるんじゃないか」と思うようになってきて、 なんとなく自分の中で仕事に対する満足が十分得られなくなってきました時に、医療の世界と出会ったのです。

そこで、患者さんと先生の間の情報のギャップがあり、患者さんは先生に聞きたいことがいっぱいあるのに、 聞けないまま診察室を出て帰ってしまうとか、先生が一生懸命時間を割いて説明しているのに、それが全然患者さんに伝わっていなかったり、 という現状を知ることになりまして、そこに自分が経験してきた接客やコミュニケーション、 そういったものが提供できるのではないかと思い、医療の世界を志すようになりました。

そうして看護学生だったとき、がんになっても、とても前向きに明るく生きていらっしゃる、 「がんサバイバー」と言われている方と出会ったのです。その方は、授業で講義してくださって、 「私は肺がんを体験しました」とおっしゃいました。お肌もつやつやしていらしたし、いきいきしてパワーを感じるような方だったので、 「えー?」と私は思ったのです。

当時、がんと言うと、暗くて、怖くて、痛くて、苦しくてと、マイナスのイメージしかなかったので、その方が明るく 「私はがんを克服しました」とおっしゃったのに驚いてしまったのです。その方のお話を聞くと、 2年ほど前にがんの宣告を受けて手術をしたこと、その当時はキャリアウーマンだったそうですが、自分の人生はこれで終わったと思って身辺を整理し、 仕事も退職して、遺書を書いて死ぬ準備をなさったそうです。でも、きちんと治療と向き合って、今は元気でいらっしゃるのです。

当時は、精神的にも肉体的にもすごく落ち込んだけれども、今は前よりも強い女性となっていきいきと生きていらっしゃる。 そのプロセスに、どういうことがあったんだろうと看護を志す学生として、すごく興味を持ちました。 私は、医療の広い領域のなかで、どこで自分が活動していけばよいのかなと思った時、その方と出会ったものですから、 すぐがんの分野へ進もうと思いました。特に、がん治療から社会に戻って自分を取り戻していくまでの間の患者さんを支えたいと思ったのです。

病院でがん患者の看護をするために学校に入ったのですが、今は、がんになってすぐ亡くなってしまう時代ではなくて、 5年生存率が50%を超える時代ですから、いかにまた社会復帰していくかということが課題になっている。 そこをどう支える社会を作るかということが、これからの社会の大きな課題だと思ったのです。

私がこの道へ進むきっかけを作っていただいた方とお話をさせていただき、どうして彼女は明るくがんと向き合うことができたのかを聞きますと、 正しい情報と敵を知り、自分を知り、しっかり向き合っていく、そんな姿勢が感じられました。 「情報自体がとても大事なんだな」ということを改めて感じました。

みなさまも、人生を振り返って、例えば、受験、就職、結婚、転職とか、人生の転機になるような時に、 正しい情報があるというのは、とても大事なことだと思いませんか?  今日はがんを知るということで、みなさんと知識を共有したいと思います。 がんとどう向き合っていくべきか、治療と現状について、がん患者さんがどんな問題に直面しているか、 もしみなさんががんになったら、大事な人ががんになったら、どんなふうに賢い患者になっていくかということをお話ししたいと思います。

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3.がんを知る

がん発生のしくみ図 がんが増えるしくみ図
人体は60兆の細胞からできているということをごぞんじですか? ひとつひとつの細胞は目に見えないほど小さい。 髪の毛には髪の毛の細胞、皮膚には皮膚の細胞と、それぞれの場所にそれぞれの役割があって、一つの身体ができている。 その小さな細胞は新陳代謝といって、生まれ変わっているのです。 自分と同じコピーを作って役割を終えた細胞は死んでいくという新陳代謝が行われています。

皮膚の細胞もそうやって新陳代謝して、活発なうちは皮膚もつるっとしていますが、活発でなくなると張りのない皮膚に代わっていく。 そのような新陳代謝の中で毎日60兆個の中の8000億個の細胞が細胞分裂をして自分のコピーを作っていくといわれています。 まったく自分と同じものを作るのですが、間違ったコピーができてしまうこともあります。それが、がんのもとになるのです。 その間違いが毎日6000個くらいは発生しているだろうと言われています。

ですから、私たちの身体の中でも毎日6000個くらいがんの卵が産まれているらしいのです。 通常は、免疫といって身体の中の自衛隊といいますか、こいつは悪いと判断するとやっつけてくれる働きが身体の中にありまして、 例えばウィルスが入りますと戦いが起きて、ちょっと熱が出たりする。がん細胞の卵もそういう免疫の力で通常は消えてしまう。 でも、その攻撃をすりぬけて残っていったものが、自分を増やしてがんになっていくと言われています。

毎日60兆の細胞のうち8000億個の細胞が細胞分裂をして生まれ変わり、その中の5000個くらいのミスコピーが生まれ、 それが戦いで消滅させられ、あるいは生き残る。生き残ったミスコピーの細胞も次の戦いで死ぬかもしれない。そんなことを毎日繰り返している中で、 徐々にたったひとつのがん細胞が少しずつ増えていくのです。 ですから、ある日突然、身体の中にがんができたということではないんです。

がんの宣告を受けたとき、突然、その日からがん患者になった気がするんですが、考えてみると、 小さいひとつの細胞が倍々となってゆっくり増えていく。中川先生といって、 私の東大時代の上司が書かれた『がんのひみつ』の中では100万個で約1mmの大きさになるということで、 一個の細胞が分裂を繰り返して100万個になるのに数年かかるとあります。良く考えれば「がんですね」と言われても、 数年前から身体の中にがん細胞はあったのです。

「正常細胞とがん細胞の違い」図 がん細胞は、普通の細胞と違ってなんで悪いのかという話に移りたいと思います。 がん細胞というのは自分の仕事をしません。細胞にはそれぞれの役割と場所があるということをお話しましたが、 例えば胃の細胞であれば、食べた物をゆっくり溶かして吸収する働きがあるのですが、胃にできたがん細胞は、 その仕事をしません。

仕事をしないだけではなく、「もっと居心地の良い場所はないかな」と、血管やリンパの液に乗じて移っていき、 住みついてそこでまた増殖を始めます。それを転移というのです。仕事をしないくせに、 栄養だけはたくさんとってしまうという性質もあります。

免疫の攻撃をすり抜けて増えてきている細胞ですから、とても生命力が強くて、ちょっとやそっとの攻撃では死なないということがあり、 がん治療というのは厳しい戦いになっているのです。 がん治療というと、痛くてつらいという苦しいイメージがあると思うのですが、今は副作用に対する対策が良くなってきています。 ここ10年くらいでめざましく良くなってきています。がんがあるからという理由で人間が亡くなるわけではないのです。

自分のやるべき仕事をしないがんなのですが、例えば肝臓とか肺とか脳とか、 命を維持していくのにとても大事な臓器ががん細胞に置き換わっていくと、 その機能が失われていってしまうのです。そのことが命を奪うのです。

ですから、がんが身体のなかにあっても、そういう悪さをしなければ、 長く生きられるということもあるのです。がんになったと聞くと、どうしても慌ててしまいます。 でも、ちゃんと向き合えば、5年後も10年後も生きている可能性が高いのです。もちろん早期発見は大切です。 ここで今共有したいのは、がんになっても慌てないでくださいということです。

ところが、がんは今、日本の死亡率のNO.1になっている。1981年あたりから脳性管疾患を超えて悪性新生物、 これががんのことなんですが、死因の一位になります。がんという病気が、 細胞分裂の時のミスコピーが残ることによるもので、 高齢化すればするほどミスコピーのできる可能性が高くなるということでもあります。 日本は非常に長寿国です。
「がんは日本人死亡率NO.1」図 「がんにかかる確立」図
明治時代や江戸時代の平均寿命が40〜50歳とかだったころは、がんになる前に亡くなっていたと思います。 長生きすればするほど、がんのリスクは増えてくるのです。 がんにかかる確率は、生命保険のコマーシャルでもいっていますが、男性は二人に一人、 女性は三人に一人ががんになるといわれています。

統計的には、日本人の二人に一人はがんになるといわれております。 自分じゃなくても家族や身近な人など、がんと無縁だという人は、たぶんいないと思うのです。 本来、小中学校とか義務教育の段階で、 がんについてきちんと学ぶべきではないかなと思っているところです。
次にがんの進展とステージの話をしたいと思います。
がんはよく、初期とか末期とか進行がんとか言われたりしますが、 「病期」という進行の度合いを表すいい方があります。 ステージ1からステージ4までに分類されるのですが、

「がんの進展とステージング」図 ステージ1はまだがんが一か所だけにある状態です。 「これがんかな?」という状態はステージゼロという呼ばれ方をすることがあります。

ステージ2になると、一か所にあったがんが、もしかしたら近くのリンパ節に旅をし始めているかもしれない怪しい時期です。

ステージ3になると、明らかにがんが別の場所に転移しかかっているというもので、この時期が進行がんとも呼ばれます。

ステージ4になると、乳がんの場合ですが、乳房にだけあったがんがリンパ節を経由して脳にいってしまったり、肺や肝臓に転移してしまっている状況です。この状態は進行がんとも末期がんともいわれる場合があります。こういう状況になっても、3、4年生きている方もいらっしゃるような時代になってきているのです。

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4.がんの治療と現状について

ではがんをどう治療していくか。がん治療は、早期に発見してきちんとした治療を受けることが肝心です。 というのは、がんは転移という性質を持っているからです。 良性の腫瘍か悪性の腫瘍かで検査して、それが悪性だったとき、がんということになります。 良性の腫瘍であれば、そこがおできのように大きくなっても、そこをとれば治ってしまう。

でも、そこを取るだけじゃ直らない、転移によってどこかにいってしまうかもしれないかもしれないということを考えなくてはいけない。 どこかへいってしまう前に、塊のうちに見つけて欲しい。転移する前に徹底的にやっつけて欲しいのです。 いったん転移してしまいますと、いった先いった先を手術でとることは、大きな負荷を身体にかけてしまうことになり、 血管を通してお薬を流す、抗がん剤治療に頼ることになるのです。 手術であれば、外科の先生は「すっかりとりましたよ」といえるのですが、 抗がん剤を打つ内科の先生は「とりきれました」とはいえないんです。 いかに転移を防ぐか、再発を防ぐかという観点での治療が重要になります。 がんには、三大治療方法といわれているものがあります。
「がんの3大治療法」の図 「診断から治療までの流れ」の図
手術、放射線治療法、化学療法です。化学療法は全身療法と呼ばれ、手術や放射線治療は、がんだけを狙う局所治療と呼ばれています。 この3つを組み合わせて、がんと徹底的に戦っていくわけなんですが、 このほかにも免疫療法とかいろいろな方法がありますが、今保険で認められている治療法はこの3つになります。

診断から治療まで、どんな流れで進めるのかといいますと、がん検診をご存じだと思いますが、
検診はたくさんの人を対象とするので、より簡単で時間が少なくてコストの安いものが行われています。それで「怪しい」と出たらそのあとすぐに「精密検診」を受けて、怪しいところの細胞をきちんと顕微鏡で見ることをしないと、がんかどうかということは確定できません。 医療も進んで、その細胞を顕微鏡で見たうえで、そのがん細胞に合った治療戦略をたてることが必要になってきます。その人その人によって、がん細胞の状況が違うので、同じ乳がんでも違う治療になることもあります。

ですから、がんになったら自分のがんがどういうタイプのものなのかということをきちんと調べてみることが大事です。 他の人の話は、治療の話より、がんとどう向き合ったか、家族とどういうふうに話したかなど、 治療生活や価値観は非常に参考になるのですが、治療方法に関しては、 自分のがんがどういうものなのかをきちんと先生から情報を引き出さないといけないのです。

そこで大事なのがEBAという考え方です。これはエビデンス(Evidence)、ベースド(Based)、メデイスン(Medicine)、 科学的根拠に基づいた医療という意味の頭文字で、昔は「私はこうしてきたから」という経験(Experiennce)に基づく医療が行われてきました。 今は、世界が情報を共有できる時代になってきましたから、同じ乳がんの方でもこのように治療すると平均5年は生きてきた、 この治療をすると平均何年生きてきたというような世界的なデータが集まってきているのです。 下図のようにがん医療では標準治療ということが重要です。 「大切なのは標準治療」の図
これは、現時点で最も効果が高く、副作用が少ないことが証明されている治療方法のことです。 標準治療といわれているので、標準ではなく、もっと最高度の治療をとおっしゃる方がいらっしゃるのですが、 この標準治療というのが現時点で最も効果が高いのです。効果が高くても副作用が強いと、 お薬のせいで亡くなってしまう方もいらっしゃるくらいですから、 バランスからみて一番いいだろうというものが標準治療なのです。 下図に乳がんの標準治療をご紹介させていただきました。

昔は、乳がんのステージ2Bといって、2〜3cmくらいのしこりが胸にあり、 すでにリンパ節にいくつかのがん細胞が見つかった、 もしかしたら転移しているかもしれない、でも定かではないというような方に対し、 該当部位のがんとリンパ節を大き目に手術でとってしまって、 その後も抗がん剤などを投与しないという時代がありました。

その当時に比べて、今はいくつかの臨床試験を経て、2Bというステージの方には、大きく手術するのではなく、 しこりの部分だけをとり除き、リンパ節もある部分だけとり除いて、 もしかしたら全身にがん細胞が行っているといけないからということで、 予防的に抗がん剤を種類組み合わせて投与するという方法が標準的になっているのです。

その結果、昔の抗がん剤を使わないで大きくとってそのままという時代に再発した人が1000人として、今は446人まで下がり、 そのリスクが半分くらいは減らされてきています。これが、10年20年かけて検証を重ねてきながら得られた医療の進歩です。 これからもっと良い治療が出てくれば、今の標準は古いものになって新しい標準が出てくるのです。 標準治療というのは、決して普通の治療ではないんだということを共有して頂きたいと思います。 右図は、2005年のデータで、すでに再発されている乳がん患者さんを過去どんな治療を受けていたかということを検証した結果です。
「標準治療の現実」の図
その方たちは初期のころ、標準よりかなり外れている、 あるいは害をもたらす可能性がある治療を受けていた方が45%もいたということをがんセンターが発表しています。 なぜ、標準治療を患者さんたちは受けられなかったのかの理由まではこのデータにはないんですが、 考えられる理由としては、医療提供側が新しい最新の治療法を学んでいなかったのかもしれませんし、 それを知っていたとしてもお薬を入れていなかったのかもしれません。おそらく半分でしょう。 そして、患者さんたち自身が、標準的な治療を拒んでいるという場合もあると思います。

5.がん患者さんが直面する問題

では、患者さんは、今どんな問題に直面しているのでしょうか。 私たちはそれを「社会的な問題」「精神的な問題」「身体的な問題」の3つの問題に分けて考えてみました。 社会的な問題というのは、家族や社会とどう向きあっていくかという問題です。 身体の問題というのは、治療方法や副作用など治療上の問題です。そして精神的な問題というのは、 不安やだるいとか辛いとか、気持ちの部分です。

私たちは特に「身体の問題」に関わる活動をしているという自負を持っています。 がん治療の情報というのは、治療方法が生活に直結してきますので、正しい、 あるいは新しい知識を持っているかどうかがその人の予後を左右しかねない問題だと思っています。 実際にアメリカではインターネットを使って新しく正しい情報をキャッチアップして、 それをきちんと学んで自分の治療を選ぶことができた患者さんがどのくらいいるかという調査があったのですが、 そういう情報のある方が、より正しい治療が選択できているのです。

では、患者さんはどんな状況と直面するのでしょうか? がんについてきちんと学ぶ機会がないまま、 大人になって、がんといった時に人それぞれががんに対する印象を持っています。 家族にがん闘病経験があれば、その記憶がすべてと思ってしまいます。 おばあちゃんが抗がん剤治療を受けて、とても苦しそうだったという姿を子供時代に見ていれば、 自分ががんだといわれたとき、すぐおばあちゃんの辛いイメージが浮かぶと思います。 逆に、お父さんががんになって、一日入院して内視鏡でちょっと悪いところをとったらもう次の日からお酒を飲んでいたとか、 そういうのを見ていると「なんだ、がんってたいしたことないじゃないか」と思うかもしれません。

このように人それぞれのがん理解があるのです。 それでも根底には、がんって怖い病気だという思いはありますから、だいたいはパニックになります。 あわてて調べるとたくさんの情報が出てきて、どれが正しいかわからない。 先生に相談しても、いっていることが理解できない。そんな状況に陥るケースが多いようです。 また、ちまたには健康食品やがんに関する書籍があふれていますし、いろいろな考え方が出ています。

「がん患者は忙しい」の図 一冊の本を読んで先生の考え方と違うことが書いてあったりすると、しかもそれが医学博士なんて書いてあると、どっちの先生のいっていることが正しいのかが、わからなくなります。 標準治療ではなく最高治療を受けたいとか、地方にお住まいの方は、都心の大病院に行きたいと考えます。 身体に優しく害がないと思われている健康食品とかサプリメントについて、先生に聞いてみたいと思っているが、 なかなか聞けないなど、いろいろな状況が現れます。

先ほど申し上げたように、がんは突然身体のなかにできたわけではないんです。 何年も前から、最初のがん細胞は身体のなかにあり、それが除々に増えて大きくなってきている。 その間、ずっと普通の暮らしをしてきたのです。それが突然、がんとわかった瞬間からパニックになって、 人生を終える準備を始めるというのはおかしいと思いませんか? 冷静でいられないのはわかるのですが、この初期段階での治療が本当に大事ですので、 がんになったらまず落ち着いて、情報を集めすぎないで、正しい情報にアクセスした上で先生ときちんとお話しをして納得のいく治療を選んでほしいのです。

まず、自分のがんのタイプがどんなものなのかをきちんと説明を受けて、理解してください。 わからなくても、先生の資料をコピーしてもらってください。セカンドオピニオンに行くときにも必要ですから。 「自分は乳がんです。この治療でいいんでしょうか?」といっても、セカンドオピニオンの先生はわかりません。 データには、主治医の先生が細かく治療法を書いているので、 そういう情報がないとセカンドオピニオンの先生も判断できないんです。

ここで、標準治療はどんな臨床試験を経て確立されているのかというお話をします。 お薬を開発していく段階で、この成分がなにか効くかを動物とかで確認します。 日本のマスコミは、この動物実験の段階で、すごい期待される物質とか記事にしたりするのですが、 そこからお薬として使われるようになるまでに10、20年かかるのです。なぜかといいますと、 ネズミの実験はあくまでネズミにしか効果があったことしかわかりません。

人間に効果があるかどうかということを、どこまでどういう量を使ったら、 安全なのかということを健康な人を対象に調べます。 それから今度は本当に病人の方に効くのかどうかということを調べ、最終的には薬にはブラセボ効果といって、 小麦粉のようなものでも権威ある人が「すごい薬なんですよ」といって与えれば効いたというようなことがあるので、 病人の方たちに、該当成分の入ったお薬と入っていないお薬を同じ条件で投与し、 その成分が効いているということを証明するのです。
「大事なのは科学的根拠のある情報」の図
それを行うのに何年もかかって、それが終わって世の中に流通するお薬ができた段階で、 今度はそのお薬をどういう組み合わせで投与するかということが抗がん剤では出てくる。 化学療法だけではなく、そのお薬を手術とどう組み合わせていくかが考えられるのです。

上図はACという新薬の組み合わせの手術や他のお薬との組み合わせの患者3グループへの投与例です。こうやって長期間、 たくさん患者さんでの臨床試験例を行い、その中で勝ち抜いてきた組み合わせが標準治療になっていくのです。 がんに効くといわれる健康食品やサプリメントでは、このような統計的な検証は行われておらず、 たまたま効果があった人が多くいたというものが多いのです。

インターネットで、「がん」「直る」というキーワードで検索すると、「?」と思うような情報を含め何百万件もヒットしてきます。 インターネット検索で出てくるものの中には、お金を払って広告として上に出てきているものもあるのです。 インターネットで情報をとる場合、誰がその情報を書いているのか、その情報の最終更新日がいつなのか、 どんな目的で、何のためにその情報を発信しているのかをチェックしていただきたいと思います。

ネットには、たくさんのブログがあります。日本は日記文化のせいか、多くの人が自分の体験や思いをブログにして発信しています。 これらの情報には感動させられ勇気づけられるものも多いのですが、注意していただきたいのは、 その人のがんと自分のがんは違うかもしれないということ。その人がこの治療で治ったと書いてあっても、 自分のがんには違う治療が必要かもしれません。 ブログに影響されて自分の先生とコミュニケーションがうまくいかなくなってしまう方がいらっしゃいます。 自分のがんはどうなのかということは、自分の主治医に聞くしかないんです。 まず主治医とのコミュニケーションがベースだということは共有してください。
「もし、がんになったら!?」の図
私は、キャンサーネットジャパンの活動で、セカンドオピニオンという活動をしてきたのですが、 がん治療は最初が肝心なのに、ほとんどの方が最初の段階であわててしまって、先生にお任せ医療になってしまったり、 間違った治療を選んでしまったりしています。

ひと通りの治療が終わって落ち着いた頃、自分の治療を振り返って、 これで良かったのか、と思っている方がすごく多いと感じました。きちんとした治療を普及させるため、 私たちは、セカンドオピニオンをお勧めしてきたのですが、後悔をさせてしまったケースがままありました。

このサービスは4年前に終了していますが、いかに必要な時に正しい情報にアクセスできていなかったか、 あとから知るということが多かったかということを感じました。 最初にきちんと情報を得てから受けないんだろうと歯がゆく思ったことを覚えています。 みなさんがそういうことにならないため、まずがんになったときにあわてないということです。

きちんと正しい情報を得て欲しいということ、その情報が臨床試験とかできちんと検証されている情報かということを確認すること。 健康食品やサプリメントで治そうということも否定はできません。でも証明されていないかもしれないのです。 それをわかった上で、試したいのであれば先生に相談してください。

自分のがんの情報は、主治医が全部持っています。だから先生を骨の芯まで利用するつもりでうまく使ってください。 そして標準治療をきちんと受けていただきたいと思います。これは良いものであることが検証された治療法ですから、 ほとんどの公的保険対象になっています。標準治療がどんなものであるかわかった上で別の選択をするというのは、 その人の自由です。

「治療を決める要素」の図
乳がんの場合、治療を決める要素を右に掲げて見ました。医師はこのような視点から、 あなたのがんについての情報を集めて治療法を組み立てているのです。医師は医学情報の専門家です。 そして、みなさんは自分の専門家なんです。自分がどうしたいか、自分はどう生きていきたいか、 自分はこの先とても大切なイベントが控えているとか、そういうことは先生にはわからないデータです。

その自分のデータを伝えたうえで、治療戦略ができ上がってくるのです。 それから、もう一つお伝えしておきたいことがあります。がん治療というのはお金がかかるようになってきていて、 経済の問題に直面しておられる方も増えています。また働き盛りでがんになると、 転職とか退職を余儀なくされてしまったり、抗がん剤が増えてきたのはよいのだけれど、 経済的なトラブルも増えているという状況もあり、厳しくなってきています。

いま、入院型から通院型の治療に医療が変わってきています。病院は、いかに早く退院してもらうか、 そうしないと病院の利益が上がらないような仕組みになってきているのです。 ですから入院日数をできるだけ短くして、通院治療でやってもらうような国の仕組みになってきています。 昔は入院して、抗がん剤治療の点滴を持ってというイメージだと思うのですが、今は午前中に外来で抗がん剤を入れて、 午後から会社に行くという方も結構いらっしゃるのです。

昔入っていたがん保険は入院型が多くて、今がんになってみると、入院しか補償していなかったり、 入院5日から補償になっていたりで、全然カバーしてもらえないという問題が起きています。 ですから、現在の通院型の治療に合うようながん保険、通院でもきちんと補償してくれるものに見直しておく必要があります。 いままでお話したことで、経済的な問題と情報の問題は備えることができます。

そして、精神的な負担というのは、治療と安心して向き合える納得した治療選択ができるという状況に身をおくことで、 だいぶ軽減されるということをお伝えしておきたいと思います。 誰もががんにならなければよいと思うのですが、国立がんセンターが公示している「日本人のがん予防法」を下に掲げておきます。
出展元:http://ganjoho.jp/public/pre_scr/prevention/evidence_based.html


「日本人のためのがん予防法」の図
飲酒は節度ある飲酒、禁酒ではありません。なんとなく体験的にわかっている健康的な生活をすることがイコールがんの予防につながると国の研究でもいっているのです。 それでも、とても健康的な生活をしていてもがんになってしまう方はいるし、二人に一人はがんになる、 それが現実なんですね。ですから予防を考えるのも良いのですが、まずはがんになった時にどうしようか、 そのへんをきちんとすること大切だと思います。

たしかに、予防できるがんは実はあります。子宮頸がんです。 子宮頸がんに関してはニュースでもたびたび取り上げられた、 子宮頸がんの原因となるウィルスを予防するワクチンがあるのです。
「がんは予防できないか?」の図 「検診で早期発見できるがん」の図
それが国の助成で自己負担が少なくて接種できるようになっています。 これは、11歳から14歳の若い女性に対してが最も効果的だといわれており、 残念ながら私のような年代になってはワクチンを受けてもあまり効果は期待できないようです。

このワクチンは、セクシャルデビュー前の女性に打つのが有効だとされています。 性交渉を通してこのウィルスは感染します。女性の8割が一生に一度は感染するといわれるくらい感染率が高い、 ありふれたウィルスですので、セクシャルデビュー前の女性に打っておいて、感染を防ごうというものです。 このような予防ワクチンのほか、がんの早期発見が比較的簡単にできるのが、子宮頸がん、大腸がん、乳がんです。

上図のように、大腸がんも便潜血検査を定期的にすることで見つけることが可能です。このほか、 血液検査でわかるPASという前立腺がんの発見に役立つ数値もあります。 しかし、このPASは高いデータが出たとしても必ずしもがんではない場合がある。 高齢男性ですと、高い確率で高いPSAの数値が出ます。

それでPSAはまだ国が推奨するがん検診項目には入っていないのです。 乳がんもマンモ検診を受けることによって、早期発見が可能です。 このような検診で早く見つけられるがんは、ぜひ早期に見つけるように、 ご自身だけでなくてまわりの方にもお伝え願えればと思います。 情報があふれる中で正しい情報を得るというのは難しいことです。

「川上祥子(かわかみさちこ)さん」 下記のような国が情報を出しているサイトや、キャンサーネットジャパンにも正しい情報がありますからぜひアクセスしていただきたいと思います。 「キャンサーチャネル」というキーワードで検索していただくと、キャンサーネットジャパンのページが出てきます。 ここには動画でがんの情報が読めます。

それから、健康食品とかサプリメントに関しても、がん患者さん向けの公的機関の情報があります。 健康食品を健康な方がとるのは問題なくても、がん治療中の方が内服されると、 お薬と組み合わさって副作用が強くなってしまうということが起こることがあります。 がん患者さんは病気の影響で、代謝といって解毒の作用が普通の人よりも落ちている可能性がありますので、 普通の人が飲んでもなんでもないサプリメントが、がん患者さんにとっては思わぬ副作用を生ずることがありますので必ず先生に相談してください。

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<標準治療についての情報を得られる推奨サイト>

*国立がんセンター がん情報サービス
  http://ganjoho.ncc.go.jp/public/index.html

安心して標準治療を受けられる全国の「がん診療連携拠点病院」の情報も得られます。 拠点病院では、がん患者・家族の相談支援窓口が設置されています。

*キャンサーネットジャパン「がん情報ビデオライブラリー」
  http://www.cancernet.jp/video/index.html

CNJが過去に実施したセミナー動画。第一線で活躍される先生方の講義が無料視聴可能です。

*キャンサー・チャンネル:
http://www.cancerchannel.jp/

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<サプリメントや健康食品についての信頼できる情報>

*厚生労働省ホームページ、食品安全情報
"http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/index.html

*国立栄養・健康研究所 健康食品の安全性、有効性情報
http://www.nih.go.jp/eiken/

*日本代替補完医療学会
 がんの補完代替医療ガイドブック(厚生労働省がん研究助成金)

 http://www.cam.med.osaka-u.ac.jp/guidebook/index.html

今日は、私たちの活動のミッションである「納得のいくがん医療が実現する」ためのさまざまなアプローチについてお話しました。この情報を他の方々に伝えていただきたいと思います。



講座企画・運営:吉田源司
文責:臼井良雄
会場写真撮影:川上千里
HTML制作:上野治子

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「もしも」のときに、かしこい患者になるために


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